【QUESTION】戒名も法要もなし。仏教式より安上がりって、本当なのか?
「葬式仏教」という言葉がある。日本の仏教は本来の宗教活動をおろそかにし、生活上の儀式にすぎない葬式を独占的に行うことで、不当な利益を挙げているのではないかという皮肉を込めた呼び方だ。そうした考えをもとに、葬式仏教を離れた「リーズナブルな葬式」がどこかにないかと、他の宗教の葬式に興味を向ける人が少なくない。
たしかに神道やキリスト教には、仏教の制度である戒名がなく、したがって戒名料も発生しないということは事実である。だからといって、葬儀費用も仏式と比べて安いのだろうか。
まず気になるのが、日本古来の神道式(神式)の葬儀である。葬儀相談員である市川愛さんに聞くと、「昔から一定数のご家族が神式の葬儀を出しています」という。
もっとも、仏式など多くの選択肢の中からあえて神式を選んだというわけではなく、古くから特定の神社と付き合いのある家が、代々の習慣として神式の葬儀を行っているのが実態のようだ。「神式の葬儀数は葬儀全体の1割弱。最近増えているというデータもありません」と市川さんはいう。
神式葬は特にハードルが高いわけではない。一般の家庭でも菩提寺がなければ、神主を呼んで神式の葬式をすることは可能である。一定の需要があるので、どの葬儀会社でも頼めば神式で葬式を行ってくれるという。
ただし「神式の費用が仏式に比べて特に安いわけではありません」(市川さん)。
たとえば、お布施の代わりに神主に玉串料を包む必要がある。大きな葬式だと雅楽の演者などを呼ぶこともあり、当然ながらその費用も支払う。神社内には墓がないので、墓が必要なら別に自分で用意しなければならない。また神式の場合にも、死後に5年祭、0年祭といった式年祭があるから、その都度費用が発生するのは仏式と同様である。
次にポピュラーなのが、キリスト式だ。ところが、誰でも受け入れてくれる結婚式とは違い、葬式を出す場合は、ふつう、故人がその宗派の信者であることが条件となる。
キリスト教の葬儀は、仏式と比べ簡素で費用も安い。その代わり、「信者は場合によっては教会に年収の5~10%を寄進しています。葬儀を安くあげようと思って入信すると、思惑と違って非常に高くつく結果になるかもしれません」と市川さんは釘を刺す。キリスト式の葬儀が増えているというデータもないという。
一方、最近増えているのは「無宗教」の葬儀である。「直葬でお坊さんを呼ばないケースも無宗教に含めると、このところの増え方は急速です」と市川さんは指摘する。その底流にも「葬式仏教」への反発がありそうだ。
【ANSWER】神式もキリスト式も相応の費用がかかる。
1973年、神奈川県出身。葬儀社紹介会社を経て2004年に独立。消費者視点からの相談・講演を行う。著書に『お葬式の雑学』など。