北朝鮮が、日本に多くの債務を抱えていることは、北朝鮮研究者の間ではよく知られている。すなわち、北朝鮮は日本に多くの借金を抱えているのである。しかし、拉致問題をめぐる日朝交渉があるとはいえ、北朝鮮の対日債務について問題提起されたという報道もない。しかし、この問題は、日朝交渉でいずれ浮上すると考えられる。
北朝鮮は、1970年代に日本企業からプラント類や各種の機械機器類などを長期延べ払いによって大量に輸入した。これは、北朝鮮の産業施設を刷新して、生産能力を高めることを目的としていた。ただし、その生産物の多くは国内消費に回ったため、外貨稼ぎにはあまり役に立たず、たちまち債務返済のための外貨不足に陥った。
1976年にはその支払いが事実上不可能になった。そこで債務返済を繰り延べるために返済スケジュールを変更(リスケ)する必要に迫られた。76年に平壌で日本の債権者による交渉団と朝鮮貿易銀行との間で第一次リスケ合意書が締結され、一部支払いを2~3年猶予することになった。それでも、北朝鮮は日本との約束の利子支払いの履行が困難となり、79年には第二次リスケ合意書が締結された。この合意書では、89年までの10年間で20回の分割で返済することになり、延滞金利、元本の支払い、金利計算の利率などが取り決められた。
しかし、北朝鮮は再び支払い延期を要請してきたので、83年に第三次リスケ合意書が締結された。ところが、その直後である83年10月9日に北朝鮮の工作員が、ビルマ(現在のミャンマー)を訪問中の韓国大統領である全斗煥を暗殺しようとして、ビルマ建国の父であるアウン・サンの廟を訪れた大統領一行を狙った爆破テロ事件を引き起こした。いわゆるラングーン爆破事件である。全斗煥は無事であったが、21名が死亡し、47名が負傷した。この事件に対して、11月7日に日本政府は、日本と北朝鮮の外交官接触の停止など4項目の北朝鮮に対する制裁を発表した。
日本による制裁を理由に、北朝鮮は返済金の支払いを棚上げした。その後、日本政府は制裁措置を解除したにもかかわらず、北朝鮮は支払いの棚上げ継続を一方的に通報してきて、その後の支払いは一切行われていない。債務残高は、元本や金利および孫金利が増大していることによって、現在では2000億円を上回ると言われている。