ウォール・ストリート・ジャーナル紙は8年ぶりの円安水準となった5月27日付で、円安のメリットとしてGWの訪日外国人の増加、海外資産の価値の増大、輸出競争力の増加(ただし、期待されたほどは伸びていない)等を挙げた。ただ、大量の株式や海外資産を保有できるのは日本全体からすれば一部に過ぎないし、輸出企業が収益を挙げた分、多額の法人税を納め、ベア等で賃金に反映させるなら、一般国民にも巡り巡って円安の恩恵が行き渡るが、なかなかそうした状況になりえていない。法人税は引き下げ傾向にあり、今春ベアを実施したのは日本の企業数からすればわずか0.3%に過ぎない一部大企業中心。99.7%を占める中小企業では据え置きも多い。
事実、内閣府が3月30日に発表した今年度の賃上げ率の予想は、定期昇給まで含めると昨年度の2.07%から2.2%程度に上がるものの、企業業績や物価上昇を反映させるベア部分は、昨年度0.39%に対し0.5%程度。それ以前の集中回答日に政府が期待した0.7%程度からは乖離が生じている。ベアの伸び悩みは景気の先行き不安にも繋がる。
そうなると訪日外国人が頼りだが、外国人観光客が年間8000万人以上と世界1位のフランスに比べれば、1000万人をようやく超え31位(14年)の日本では、まだ国全体が潤う規模には至ってない。観光立国の推進には、為替水準とは別の課題があろう。
一方、同紙は原材料など輸入価格の高騰、円安メリットの享受できない産業の空洞化、小規模事業者への悪影響等のデメリットを指摘。急激な円安に振れた分、日本の輸出企業はドル・ベースの価格引き下げで海外マーケットでのシェア拡大が可能だが、そうはせずに収益確保を選択。結果、輸出が伸び悩み、片や輸入増で貿易収支が赤字へ。輸入価格の高騰が小規模事業者の倒産件数の増大に直結していると手厳しい。輸出企業が円安による収益増の一部を吐きだし、国内へ循環させてくれなければ、円安メリットが国内全体に行き渡るのは難しい。円安・円高の善悪を語るより円安の恩恵を享受できない日本の経済構造や税制などに着目すべきだろう。