“神の声”から市場動向を察知する
あふれる情報の中で私が最も重視するのは、営業マンが集めてくる需要家の生の声だ。毎日の仕事もそれを起点に始まる。朝、私は出勤途中の車中から、アメリカにある子会社で世界最大の塩化ビニル樹脂メーカー、シンテック社の現地駐在幹部へ電話をかける。アメリカにはこの人がこんなことをいうなら、市場のサインであると察知できるようなキーパーソンの需要家が何人かいて、その言葉はまさに“神の声”だ。それを毎日確認するのだ。
彼らから昨日までなかった動きが出たら、すぐに対応策をとる。市場の調査データに表れたときにはもう遅い。需要家のような変化を生み出すおおもとの当事者の声に耳を傾け、その判断を探れば、ほかの人たちよりいち早く動くことができる。
社内の会議でも、私は参加メンバーをポストやポジションに関係なく、「誰が顧客に直接接し、生の声を知り、必要で正確な情報を持っているか」を基準に選ぶ。情報は人を介せば介すほど、人の解釈や都合によりバイアスがかかりやすい。組織内ではよい情報ばかりが上がり、悪い情報は滞ることも多い。数字になって初めて事態の深刻さを知ったのでは対応が後手に回る。
雑音を排除し、真に価値ある情報をつかんだら、第二の基本として、その時点で「これが最善」と思われる判断を行うことだ。それが正しかったかどうかは結果にすぐ表れる。間違っていたら修正し、新たな判断を行えばいい。中長期的にはよい方向へ収斂していく。
(09年7月13日号当時・社長構成=勝見明)