最善と最悪ケース必ず想定するわけ

日産自動車社長兼CEO カルロス・ゴーン氏●1954年、ブラジル生まれ。78年エコール・デ・ミーヌ卒業。北米ミシュランCEOなどを経て、96年ルノーに入社。99年日産COO。2000年社長、2001年社長兼CEOに就任。

「予測する」ということに関していえばミシュラン時代、ルノー時代を通じて体得したことがあります。それは、予測や見通しは、いつも間違えることを前提に対処すべきということです。

例えば100万台増販のコミットメントを策定した「日産180」では、当初、100万台のうち、30万台を米国、30万台を日本、30万台を一般海外市場、10万台を欧州と予測していました。結果は、すべて間違っていました。米国37万台、欧州が8万台、日本が19万台、一般海外市場が43万台の増加ですから内訳は全然違う。しかし、コミットメントである100万台という増販目標自体は達成できました。

予測は大体いつも外れる。唯一、我々にとってできるのは、うまくいかない場合の最悪のシナリオと順調にいった場合の最善のシナリオ、この2つを想定するということです。これは役に立ちます。

日産でもそうです。コミットメントは一つですが、前提条件として常に最悪のケースとベストケースを想定します。もちろんベストケースの実現を目指して取り組むわけですが、最悪のケースとベストのケースをきちんと想定できていれば、最終的には、大体中間点に落ち着くものです。いいニュースと悪いニュースは互いに相殺するものですから。

例えば2005年は非常に興味深い1年で、コントロールできなかったものがかなりありました。原材料価格は高騰し、エネルギー費も上昇した。予想以上に金利も上昇し、インセンティブも上がった。ところが幸いにも為替レートが有利に働きました。円安に振れた分、悪いニュースを相殺できました。このように、最悪のシナリオと最善のシナリオを想定できれば、リスクを限定的に抑えることができるのです。

(06年4月17日号 当時・CEO 構成=小川 剛)