システム思考で事業の裾野拡大

リコー特別顧問 桜井正光氏●1942年、東京都生まれ。66年早稲田大学卒業後、リコー入社。リコーUKプロダクツ社長、リコー常務などを経て、96年社長就任。2007年会長に就任。2013年より特別顧問。

日本には技術力は充分にあるけれど、システム思考の部分が弱いですね。ここはアメリカが桁違いに強い。たとえばグーグルにはネット検索にとどまらず、検索を核にした新しい文明をつくるようなパワーがあります。

アップルのiPodもそうです。製品というものは、そのハードだけに目を向けると、スピーカーを高品質にとか、操作性をどうやって改善するかとか、小さな側面ばかりに目を奪われがちです。でもアップルは、技術やスペックに必要以上に拘泥しなかった。

まず、パソコンからお気に入りの音楽をダウンロードし、オリジナルのアルバムを編集できるようにする。それを、車のFMチューナーにトランスミッターで送り、大音量で流せるようにもしました。そうすればドライブ中に彼女と自分の編集した音楽を簡単に楽しめるわけですね。

モノをつくるだけでなく、どういうふうに使ったら便利なのか、楽しいのか、ということまで提案するわけです。これは類稀なる構想力があるからこそ、できることです。ハードの性能をどう上げるかに血眼になってしまうと、大きなマーケットを見逃してしまいます。

残念ながら、こういう構想を描く能力を持った人間が日本には少ない。最終的には教育の問題に行き着くのでしょう。

ただ、こうした事例は日本でもゼロではありません。リコーは複写機とかプリンターといったOA機器を製造販売しています。モノだけに着目するとそれで終わりですが、OA機器は何のために存在するのかに着目すると、「情報処理のための道具」という答えが出てきます。

紙をコピーする、資料を印刷する、という要素は情報処理というプロセスのほんの一部分に過ぎない。そこに気づけば、情報処理というプロセス全体の生産性をもっと上げる、という高次元のニーズが表れます。単なるOA機器のメーカーではなく、「オフィスの生産性を高めるドキュメント・ソリューションのプロバイダー」を目指すことで、ビジネスの裾野も広がっていきます。

(08年2月18日号当時・会長構成=荻野進介)