日本社会に次々と現れる変革の旗手たち。その陰に、企画者であり資金集めに汗をかく縁の下の力持ちがいる。谷家衛。知られざる仕掛け人の正体とは?
ソロモン出身の「らしくない」大物投資家
「やあ、すいません、すいません」
約束の時間から15分ほど過ぎたころ、スーツ姿の谷家衛(たにや・まもる)がリュックサックをぶら下げて校舎前の砂利道を走ってきた。
新幹線軽井沢駅から車でおよそ30分。広大な別荘地の一角に立つ3棟の木造校舎が、インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)のキャンパスだ。
2014年8月24日。この日午後から、下村博文文科大臣ら要人を迎えて念願の開校式典が開かれることになっていた。ISAKの発起人代表でもある谷家には、その前に撮影と最後の取材を頼んでいた。
小柄で童顔。そのうえ腰が低く、決して自分からは目立とうとしない。このときも「(プレジデント誌面には)僕の写真なんかより、イラストを使ってくださいよ」と真顔で持ちかけてきた。
谷家は1980~90年代にかけてソロモン・スミス・バーニー証券の辣腕トレーダーとして活躍し、02年からは独立系大手投資顧問会社のあすかアセットマネジメントを率いる投資のプロだ。あすかではベンチャー企業への投資や育成にも関わり、ネット生保のライフネット生命保険のように企画そのものを手掛けたケースも少なくない。
その大物投資家がなぜ、非営利事業である私立学校の発起人代表をつとめるのか。
学校だけではなく、谷家は国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)東京事務所の開設に尽力したほか、最近ではLGBT(性的マイノリティー)支援団体であるNPO法人グッド・エイジング・エールズの活動にも関与して、知恵出しなどに忙しい。
お金にお金を稼がせる“マネー資本主義”の心臓部を担うのが投資家だとしたら、谷家の姿勢や行動はいまひとつ投資家らしくない。
営利事業であるライフネット生命に対してさえ、「赤字決算を出したとき、筆頭株主なのに谷家さんだけは何も言わなかった。逆に、相談したら全力でそれを解決してくれた。ギブ・アンド・テークではなく、全部『ギブ』。なぜでしょう。私にはとてもできないことです」。出口治明ライフネット生命会長兼CEOがこう首をひねるほど、谷家という投資家は不思議な個性を放っている。
これまでは取材に応じることがほとんどなく、「謎の人物」とさえ言われてきた。社会に変革を起こす著名なベンチャー企業や学校、NPO法人の謙虚な仕掛け人。谷家衛とは何者なのだろうか。