グローバル化、業界再編、リストラ……、企業を取り巻く環境は激変している。ライバル会社はどうなっているか、徹底レポートする。
大手は海外シフト、中堅は合理化へ
売上高の90%を国内市場に依存する食品業界も少子高齢化を背景に二極化の様相を呈している。サントリーホールディングス(HD)による米ウイスキー大手ビーム社の巨額買収に象徴されるように体力のある大手は海外シフトを鮮明にする。一方、中堅企業は縮小する国内市場でコスト削減を含む合理化を推進している。
売上高1000億円弱の食品加工会社における部長職の男性は「2年前に賃金制度を変革し、管理職層の人件費を抑制する一方、営業や技術系の部下なし管理職の中高年の整理が始まっている。一部は生産業務の支援ということで現場の工場に配置しているが、“追い出し部屋”のような存在で慣れない仕事に嫌気がさして辞めていく人もいる」と語る。
生き残りを懸けた再編・淘汰も進む。2012年にはアサヒグループHDがカルピスを傘下に吸収。翌13年には傘下のアサヒ飲料がキユーピーのミネラルウオーター事業を取得。また同年、三菱商事がキリン協和フーズを買収するなど経営資源の選択と集中が加速している。合併や買収の先にあるのは重複部署の整理・統合によるリストラである。すでに総合商社主導で完了しつつある食品卸売業界の再編劇では多数の人員削減が実施された。
各国の有力企業の買収で海外市場に活路を求める大手の社員といえども安泰ではない。大型買収を展開してきた日本たばこ産業は今期決算で過去最高の最終利益を見込むが、一方で国内たばこ部門の1600人規模の削減に踏み切る予定だ。たばこの需要減を見据えた攻めのリストラといえるが、業績好調時にこそ事業構造改革に踏み切る企業も現れるかもしれない。
また、オーストラリアやブラジルの企業を買収したキリンHDや味の素などの大手企業は現地のブランドを重視した経営に重点を置き、現段階では人事交流は少ない。だが、グローバル経営人材の養成や幹部社員の人事制度の世界共通化による社員の選別化も始まっている。国内市場でしか通用しない社員の淘汰もいずれ始まることは間違いない。
もう一つの危惧は巨額買収のリスクだ。身の丈以上の買収の結果、グローバル経営の舵取りを誤れば、その負債は国内事業にも跳ね返ってくる。06年に板ガラスメーカー世界大手の英ピルキントンを買収した日本板硝子は外国人社長を据えても経営環境は改善せず、業績不振にあえいでいる。経営のグローバル化は社員にとっても極めてリスクの高いものとなるだろう。