名門・英国ロイヤルバレエ団で長くプリンシパル(最高位)の座にあり、「英国の至宝」と称されてきた。「舞台に立つだけで、空気が変わる」といわれる彼女は、トップの矜持を保ちながら驚くほど“普通の感覚”を持ち合わせていた――。
スポーツにたとえるなら、野茂英雄とイチローと中田英寿を足して3で割ったような人物ということになろう。それほどまでに、吉田都という名前は日本のバレエ界にとって特別な重みがある。
その経歴を見れば、彼女の実力は一目瞭然だ。17歳で渡英し、世界三大バレエ団の1つである英国ロイヤルバレエ団にて、日本人女性初のプリンシパル(主役を務める最高位のダンサー)に就任。現在は日本のKバレエカンパニーおよびロイヤルバレエ団のゲストプリンシパルを務める。「紫綬褒章」「大英帝国勲章」など、輝いた栄誉の数は限りない。故ダイアナ妃やエリザベス女王など、英国王室の面々の喝采を博し続けるが、当の本人にはその実感がない。
「私にとって、バレエは仕事です。来場されたお客様に喜んでいただけるように、ひたすらお稽古、リハーサル。あっという間にときが流れていきます」
たった1つの椅子しかないロイヤルバレエ団の主役となれば、その競争は苛烈だ。練習の末に勝ち取った主役の座も、1度怪我をすればたちまち代役を立てられてしまう。舞台の主役であり続けるために少しでも練習したい。しかし、やりすぎて体を壊しては元も子もない……。