「芸能界は、いわば永遠の日雇い労働。だからオレは早く使われる側から使う側に、いつかメディアを利用する立場になりたい、そう思っていました」
田中義剛、49歳。テレビ、ラジオで5本のレギュラー番組を抱え、タレントとして活躍しながら、十勝で酪農を営んでいる。現在、自ら経営する「花畑牧場」ブランドで生キャラメルが大ヒット。今期は約20億円の売り上げをめざす。
「手づくり商品だけで、これだけ売り上げを出す企業はなかなかないよ。新千歳空港で95%ものシェアを独占している六花亭、石屋製菓、ロイズの牙城を切り崩すことがいまの目標」と不敵に笑う。
芸能界に身を置きながらも、その間ずっと頭から離れなかったのが、北海道で牧場をやるという夢だった。少し貯えができた33歳のときに、十勝で土地を探し始めた。だが“よそ者に土地は売れない”という田舎特有の気質に阻まれ、2年経っても土地は手に入らない。あきらめかけたとき「村を全国区にしてくれると約束してくれるなら」と当時の中札内村村長が助力してくれたおかげで、やっと土地を購入することができた。
「とはいえ、農協からは牧場をするなら最初に牛を100頭飼えって言われましてね。まず借金ありき。搾乳機を入れ、工場化させる大規模農業を押しつけてきた。だからオレは牛1頭でやるっつって、もう農協と大ゲンカですよ」
生来の頑固さで主張を押し通し、ジャージー牛1頭だけを飼った。7万坪の土地に牛が1頭。「芸能人が趣味で酪農をしている」「やる気がない」など、相当のバッシングを受けながらも「オレは東京のマーケットを知っている。大規模農業の時代は終わる」と言ってのけ、独学で乳製品をつくり始めた。
牛1頭からは毎日30キロの牛乳を搾ることができる。そこからできるチーズは約32キロ。そのまま牛乳として出荷すると2000円くらいだが、良質のブランドチーズにすれば1キロで5000円の値段がつけられる。彼はそこに目をつけた。