「もともと私の筋肉は柔らかいほうで、疲れが取れやすく怪我もしにくいのです。ただし、年齢とともに疲労の回復が遅くなる。だから体に疲労をためない、体を壊さないように『どこでやめるか』が練習のポイント。思いきり練習できれば、もっと安心して舞台に立てるのに」
彼女は、才能だけで生きてきたダンサーではない。どちらかといえば努力型だ。「舞台の前日はいまでも恐ろしくなる」というが、その恐怖心も、積み重ねてきた練習量を思えばこそ乗り越えられた。
「体のコントロールは若い頃より上手になったと思います。20代はひたすら練習することでプレッシャーと闘っていましたが、いまはそれほどでもありません。バレエっておもしろいもので、人生経験を積むほど、表現が豊かになるのです。おいしいものを食べたり、いい映画を見たり、いい本を読んだり……すべてが表現に繋がります。『若い頃吉田さんが踊ったジュリエットより、いまのジュリエットのほうが情感豊かでよかった』と褒めていただいたこともあります」
最近では筋肉を内側から強くするため、練習にピラティスも採り入れるようになった。現在42歳の彼女を見ていると、このまま未来永劫、踊り続けるのではないかと思えてしまう。
「一生踊り続けられたらいいのですが(笑)。若い頃は、バレエをやめたら全く違うことをやりたいと思っていましたが、いまは違います。先輩方が私にしてくれたことを、今度は私が次の世代に伝えていきたい、と思うようになりました」
彼女を観てバレエを始めた少女は数限りない。彼女を観て劇場に通い始めた紳士淑女もいる。いつの日かきっと「吉田都に育てられた」という若い才能を、数多く観られるようになるのだろう。
(初沢亜利=撮影)