トラブル報告、価格交渉、歓送迎会のスピーチ……。オフィスや取引先、接待の場で成功するための話し方を達人に聞いた。
Case5.価格交渉をまとめる
鉄則は高い価格から順に提示すること。目標の8掛け前後の価格で妥結できる確率が高くなる。
成功事例のダメ押しで「ゾンビ退治」を!
日本人はえてしてお金の話が苦手。せっかく提案した商品やサービスを気に入ってもらえても、価格交渉で気後れしてしまうことが多い。どうしたらスムーズに価格交渉を進められるのか、プレゼン話し方研究所社長の吉野真由美さんは次のようにアドバイスする。
「褒め殺し話法(http://president.jp/articles/-/13812)のステップ3(http://president.jp/articles/-/13822)できちんと商品説明をした後に価格交渉に入りましょう。この順番を間違えて、価格を先に伝えてしまうと、相手の頭のなかは価格のことでいっぱいになり、商品説明を上の空で聞くようになってしまいます。また、あらかじめ許容範囲でいくつか価格のプランを用意しておき、そのなかで高い価格のプランから提示していくことも重要です。そうすると、相手は『負けさせることができた』という気になって、許容範囲内で折り合えます」
商品説明と価格交渉をきちんと分けるという点に関しては、プレゼンの達人でもある1st Avenue代表のマンジョット・ベディさんも同じ意見だ。
「テレビのCM制作にしても、なぜこれだけのお金が必要なのか、どれだけの効果が得られるのかを説明するのには、ある程度の時間を要します。大きな予算をとるプレゼンの場合は、別な機会を設けてもらって価格交渉に入るほうがいいでしょう」
価格の高いプランから提示していく吉野さんの手法は、行動経済学でいう「アンカーリング」の理論と合致している。アンカーリングとは「錨」を意味する英語で、潜在意識のなかに刷り込まれた情報が錨のように重石となって思考や判断を束縛するという考え。最初に高い価格を提示されると、それに引きずられて吉野さんのいうように「負けさせることができた」となり、許容範囲内でのクロージングに持ち込むことができるようになる。「本命の価格の8掛けの水準で話がまとまることが多いですね」と吉野さんはいう。