当時は自分がトップになるとは思っていませんでしたが、トップの立場としてはこのような決断と実行をきちんとできる人が欲しい。ただ、研修だけでそうした人材を育成することは無理な話で、実際に修羅場をくぐり、辛い思いを経験する必要があります。座学ではなく、実体験によって身に付くのです。

実体験するときに私が心がけているのは、イージーコースとハードコースがあれば、必ずハードコースを選ぶこと。自らを苦しめて、自分を鍛えるという任に堪える人であってほしい。

私は昨年4月に社長に就任して以来、これまでに全国40カ所をまわり、約4000人の社員と対話集会を実施してきました。当然、集会が終わると乾き物で一杯やりながらいろいろな話をすることになり、その中に「これは面白い」という人材がいたりします。また、ときどき若手社員を集めてランチミーティングを行っているのですが、そこでも面白い人材が見つかります。

そうやって見つけた人材には、今までにやったことのないようなハードなプロジェクトをやってもらいます。たとえば、今年1月1日にキリンビール、キリンビバレッジ、メルシャンの3社を束ねる統括会社「キリン」の計画策定や統合のための各社との折衝。つまりキリンの設立は、人を育てるプロジェクトという側面もあります。

メルシャンはかつて味の素の子会社であり、キリンビバレッジも以前は上場していた会社です。それぞれ異なる歴史と文化を持った会社が一緒になって、ビールでもない、飲料でもない新しい発想で、新しいチャレンジをどんどんしていきたいと考えています。

我々はメーカーですから、やはりお客様がドキッとするもの、ワクワクするものをつくる、あるいは飲み方を提案することが非常に重要です。そういう企業風土にしていくには今まで通りにやっているだけではだめで、新しい組織をつくり、そこから新しい価値を生み出していくことも大事だと思っています。

キリンビール取締役社長 磯崎功典
1953年、神奈川県生まれ。小田原高校、慶應義塾大学経済学部卒。77年キリンビール(現キリンHD)入社。キリンホテル開発運営の「ホップインアミング」総支配人などを経て、2010年キリンHD常務就任。12年3月より現職。

座右の銘・好きな言葉:意志あるところに道あり
座右の書・最近読んだ本
:『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン
尊敬する経営者・目標とする経営者
:様々な分野に尊敬する方がいます
私の健康法
:朝風呂と日々のウオーキング

 

(宮内 健=構成 市来朋久=撮影)
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