今年上半期(1~6月)のビール系飲料の販売量が6年ぶりに前年実績を上回った。主力の「一番搾り」は利益率を引き上げ、テコ入れを進める。反転攻勢に打って出るトップの戦略とは?
──なぜ社長に選ばれたと思うか。
【磯崎】もう右肩上がりの時代ではない。今こそゲームチェンジしなければならない。ルールや戦い方も変えていく。経営企画部長だったときは、本業に集中するために関連会社を10社ほど整理した。新川、原宿の拠点を売却し、中野への本社移転を決断したのも私だ。社長に選ばれたのも、しがらみを断ち切ることを期待されているのだろう。
──事業開発、経営企画、海外など幅広い部門を担当してきた。
【磯崎】一番の思い出は40代半ば、旧尼崎工場跡地近くでホテル事業に携わったときだ。立ち上げ前から稼働率の低さが予想された。人件費抑制のため、自分が泊まり込み、365日24時間、あらゆることに対応した。お客様と一緒に救急車に乗ったこともある。ほぼ休暇もなく、ベッドで寝ることもなかった。人は命令だけでは心から動かない。このとき率先垂範という言葉の持つ意味を実感した。
──キリンHDとキリンの経営陣を一本化させた。
【磯崎】もっとシンプルにしたかったが、組織変更には多大な時間とお金がかかる。今それをやっている暇はない。“自分の家”のレイアウトを変えても、お客様価値とは関係ない。“働き者”がたくさんいる会社にしたい。それがステークホルダーに対するメッセージだ。
──「一番搾り」などビール事業を強化する施策とは?
【磯崎】昨年の上半期が落ち込みのピークだった。そこで各部署のリーダーたちと真剣に議論し、下半期の戦い方を大幅に変えた。現場に権限を移すと同時に、本社の営業スタッフを現場に出し、本社を小さくした。2015年の計画は現場から上がってきたものだ。今年の上半期はヒット商品が出て、キャンペーンが成功するなど、ようやく歯車がかみ合って、社員のモチベーションも上がってきた。商品構成、価格など収益の構造も変えていく。ピンチはチャンスだ。