企業の好決算が相次ぎ、企業業績の急回復の兆しも出てきて、景気回復に期待が高まっている。辣腕&変革経営者が求める「人材の条件」を語り尽くす。
キリンビール 磯崎功典社長

トップの考え方をきちんと理解したうえで、時には厳しい苦言や反対意見も述べ、間違った判断をさせないようにする人。私が右腕にしたいのはそんな人です。

自分の意見を「はい、わかりました」と無条件に受け入れ、実行する人を求めるトップもいるかもしれませんが、それは非常に危険です。もしそのトップが100%正しい判断をできる神様のような人なら別ですが、現実には難しいと思います。

さらに、トップの決断を実行する段階になって、「社長がこう言っていますから」というだけで部門や現場を動かそうとする人は、単なるメッセンジャーでしかありません。そうではなく、右腕ならその人自身に周囲を動かせるだけの人望が必要です。

現場にはトップと別の意見があるかもしれません。もしそれが聞くべき内容ならきちんと耳を傾けるべきですが、「社長が決めたことだから」と有無を言わせず強権発動するような「虎の威を借る狐」では人はついてきません。

このように考えるのは、トップに対して自分自身はどんな役割を果たすべきか、見つめ直すきっかけとなった経験があるからです。

私は経営企画部長を務めた3年間で、約10社のグループ子会社を売却しました。綺麗な言葉で言えば事業ポートフォリオの見直しですが、これは長期的な懸案でありながらずっと着手できなかった課題でした。会社を売却すればその社員も外部に出すことになるので痛みを伴う辛い決断であり、しかも大赤字ならともかく、利益が出ている会社だと外部に売却する理由をつけにくいからです。

しかし、これからは綜合飲料事業の強化が必要で、そのためには経営資源の選択と集中を実行しなければならない――。もし、このトップの方針を私が理解できなかったら、私は手がけなかったと思います。当時のトップと話をして私自身、これは絶対にやり遂げなければならないとの思いを強くしました。