企業の好決算が相次ぎ、企業業績の急回復の兆しも出てきて、景気回復に期待が高まっている。辣腕&変革経営者が求める「人材の条件」を語り尽くす。
クボタ 益本康男元会長兼社長

ビジネスがどんどんグローバル化するなか、英語ができればいいと、大卒新入社員を全員1カ月間アメリカに語学留学に出してきました。しかしながら、昨今は事業展開のスピードが上がり、業域も拡大するなかで、そのような人材育成法だけではついていけません。昨年は海外の会社を1社、国内の会社を1社M&Aしましたが、一から人材を育成するのでは間に合わない。今年の正月に家で考えを巡らし、決意して、休み明けに指示を出しました。人材をヘッドハンティングして、営業ルートも“買う”方針を固めたのです。

アメリカ、ヨーロッパ、中国は、それなりの人材が揃っていますが、今後はアフリカ、東欧、ロシア、インド、ベトナム、インドネシアなどの新興国がビジネスの対象です。これらの国々では、一から営業所、販売ルートを開拓していくのでは間に合いません。

勝った負けたと騒ぐ成功体験の恐ろしさ

弊社の事業の主力は、トラクターやコンバインなどの農業機械です。例えば、アフリカで事業を展開する際、日本人が現地に行って活動するのに、10年近くかかる。すでに米国の大手農業機械メーカー、ジョンディアなど海外の農業機械メーカーはアフリカに拠点を構えている。どうすればいいか?

今の時代は、じっくり時間をかけて人材を育成するより、優秀な人材をいかに短期間で集められるかで勝敗が決まります。今、弊社の人材のパワーを100とすれば、グローバル展開で100を目いっぱい使っている状態です。120の手持ちがあり、100を使っている状態ではありません。120にするには時間がない。だから、足りない20を、買ってくるのです。

韓国のサムスン社のように、社員を1年間海外に送り込み、徹底的に現地と同化して収益を上げることは、弊社のビジネスでは難しい。農業というものは、個別個別で地域特有のやり方が存在するからです。アフリカのような広大な地域では、サムスン流は難しく、「農業に関わる人材をヘッドハンティングしてこい」と号令をかけざるをえない。それは10年後は、アフリカで農業の機械化が進んでいると予測しているからでもあります。

弊社の場合、海外の現地法人で外国人が社長を務めているのはカナダのみで、あとは全部日本人です。弊社が完全にグローバル化する場合、すべての現地法人が外国人の社長になれば、少しは状況が変わるかもしれませんが、現状はまだ難しい。何年後になるかわかりませんが、そのときは社内の会議も全部英語で行っているでしょうね。