Googleのノーベル化学賞受賞者は…
グーグル・ディープマインドCEOのデミス・ハサビスは、アルファフォールド――タンパク質の立体構造を予測するAIシステムで、生物学に革命をもたらした――の開発を主導し、ノーベル化学賞を受賞した科学者でもある。彼はやや独特なスタンスの持ち主で、「AIによる科学的発見の加速」を最もはっきりと追求している人物といえる。
ハサビスのビジョンは、アルトマンの「知能の時代」やアモデイの「愛と慈みの機械たち」とは少し異なり、より科学者らしい。彼にとってAGIとは、「世界を支配する機械」というより、科学の根本問題を解くための「究極の道具」である。アルファフォールドがタンパク質構造予測という50年来の難問を解いたことを、ハサビスはAIが科学を加速する最初の証拠として位置づける。
その先に彼が見据えているのは、生きた細胞の内部を再現する仮想細胞、画期的な創薬や疾病理解、材料科学・核融合技術の発展、高度な天候・気候モデル構築や数学の新分野開拓、さらには生命・意識・時間・重力といった世界の根本問題の解明である。
AIによってさらに科学の恩恵が?
ハサビスは、AGIが安全に導入された暁には、「ラディカル・アバンダンス(根源的な豊かさ)」が訪れうると語る。資源やエネルギーの不足が大幅に緩和され、人びとが必要とするものを豊富に得られる未来像だ。エネルギーが潤沢に使えるようになれば、海水から真水を得ることも、宇宙へ飛び立つための燃料をつくることも容易になると語る。小惑星から資源を得て、さらに遠くの星々へと向かう宇宙文明への見通しだ。
AGIをめぐるハサビスのビジョンは、破滅論よりも、「AIを使って宇宙と生命の謎を解き、人類の可能性を大きく広げる」という、科学的発見型の楽観主義の側面が強い。
テイクオフの速度については、比較的スローな見かたをとる。漸進的な移行が本命であると推測しつつ、先行するAGIがみずからの次世代を高速で開発するようになるハード・テイクオフの可能性も、「未知数だ」として排除はしていない。またp(doom)(AGIの登場によって人類が絶滅するか、それに準ずる破滅的な結果に至る確率の主観的な見積もり)については「確実にゼロではなく、おそらく無視できるほど小さくもない」と語る。
