※本稿は、bioshok(有路翔太)『知能爆発』(講談社)の一部を再編集したものです。
“人間並み”を目指してきたサム・アルトマン
AI開発の最前線にいる重要人物たちは、総じてAGI(汎用人工知能=人間のできるタスクをほぼ何でも効率的に実行可能なAIシステム)の実現可能性を強く信じており、しかも近年は、その実現時期の予測が驚くほど短くなっている。
OpenAIのCEOサム・アルトマンは、そもそもAGIの実現を組織のミッションそのものとしてかかげている。彼の発言に、AI開発組織のトップとしてのポジショントークが含まれている可能性が高いことには留意が必要だが、それを差し引いても、彼が描く未来像は、「AGIピルの世界観」(編集部註:人間と同等以上のAIが誕生し、人類史が根本的に変わるという考え)の楽観的な側面を代表している。
「超知能」が一気にできる事態は警戒
アルトマンの立ち位置を理解する上で重要なのが、彼が公言している「short timelines and slow takeoff(短いタイムラインとゆるやかなテイクオフ)」という戦略だ。たとえば2023年のブログ記事「Planning for AGI and beyond(AGIとその先を構想する)」で、彼は「短いタイムラインとゆるやかなテイクオフ(AGIが実現してから超知能ASIに至るまでに、どれくらいの速さで能力が上昇するかという速度の見積もり)こそが、AGIへの最も安全な経路だ」と主張している。
「超知能は人類にとって最大の脅威」
理由はこうだ。タイムラインが短ければ、AIに使えるGPUなどの計算資源(compute)がまだ相対的に少ないため、そこから一気に超知能まで飛び上がってしまう「ジャンプ」がむしろ起こりにくい。逆に長く待てば待つほど、未活用の計算資源が積み上がり、ある時点で一気に能力が解放される急峻なテイクオフが起こりうる。だから「早くはじめて、ゆっくり進める」ことが望ましい――これがOpenAIの立場である。この戦略が妥当か否かは別途検討すべきだが、アルトマンの行動と発言の多くは、このような補助線を引けば理解できる。
アルトマンは「数千日以内に超知能が実現しうる」とした2024年9月のエッセイの中で、AIによる気候変動の解決、宇宙植民地の建設、物理学の全法則の発見などが「やがて当たり前のことになる」と論じている。さらに2025年初頭のブログでは「われわれはAGIをどうやってつくればよいかわかった」とまで述べた。いっぽうで彼は、2015年のエッセイで超知能の出現を「人類の存続にとって最大の脅威」とも書いており、リスクの認識自体はもちつづけているようだ。タイムラインは短く、楽観的な見通しを語ることが多いが、リスクを否定しているわけでもないというのがアルトマンの立ち位置である。


