与論島の海をパドル1本で散歩する

いだ海を、滑るように進んでいきます。たった今、ボードの真下をアオウミガメがゆったり横切っていきました。エメラルドグリーンに輝く海原、青い空に浮かぶ真っ白な雲。透明度の高い水の下には白い砂が砂紋を作っているのが見えます。眩しい真夏の日差しと、潮の香り。聞こえるのは、パドルが作る水音と遠くの波音だけです。

私が初めて与論島を訪れたのは、20代の頃です。サイパン島でスキューバダイビングのライセンスを取得した時に指導してくれたインストラクターが、この島のショップに転勤したのがきっかけでした。当初はもっぱらダイビングだったのですが、ある時偶然SUP(サップ)に出合って、そのシンプルな楽しさにハマりました。

ボードに立ってパドルで漕いで進むのですが、視線の高さが日頃歩いている時のそれと同じで、まるで海面をのんびり散歩しているような不思議な感覚に陥ります。バランスを取るのにけっこう体力を使いますが、疲れたらボードの上に腰掛けて休めばいい。足元では熱帯の魚が泳ぎ、遠くの島の深い緑を眺めていると、時間が経つのも忘れてしまいます。

何度も来るうちに顔見知りが増え、40代前半には家も建ててしまいました。地元の方が里芋を作っていた土地を「あなたになら売ってもいい」と譲ってくれたのです。リゾート地に立つような瀟洒しょうしゃな別荘ではありませんが、自ら図面を引いて地元の大工さんに建ててもらった、島のわが家です。

ここに来られるのは、良くても3カ月に一度ほど。羽田から飛行機に乗り、鹿児島や那覇で乗り継いで、到着までに6時間ほどかかります。着いてするのはまず掃除、それから3日分の食料の買い出しです。与論島は硬水が影響してか野菜が美味しく、瑞々しい。島に来たからといって特別な一品を作るわけではありませんが、島での食事は私にとって、非日常の入り口になっています。

夜は居酒屋に行くこともあります。馴染みの店に顔を出すと、たいてい友人が飲んでいます。数人集まると決まって始まるのが「与論献奉」という酒宴です。車座になり、親役が示したテーマに沿って一人ずつ自己紹介をし、口上を述べ、盃を空ける。気の利いた話ができたら拍手喝采、笑いが起きて、野次が飛んではまた笑う。たまたま居合わせた観光客も自然と輪に加わって、皆で大いに盛り上がるのです。

島の子どもたちは、見知らぬ私にも元気に「こんにちは」と声をかけてくれます。誰もが昔からの知り合いのように迎えてくれる、花とサンゴに彩られた島――地元の人は「パナウル王国」と呼びます。海や緑や花の色は、東京では決して出合えません。海外へ出かけるよりもずっと遠くへ来た心地がして、日々のせわしなさが薄れていきます。人の温かさと豊かな自然に包まれるひとときが、私にとって何よりの気分転換になっています。

患者、治療、医療者、経営…4つの目標を同時に満たす

フィリップスはかつてテレビや音響機器、照明から調理家電まで手掛ける総合家電メーカーでしたが、現在はヘルスケア・医療機器のリーディングカンパニーとしてグローバルに事業を展開しています。日本においては人口減が進む中、MRIをはじめとする高額な診断装置の設備投資に慎重になっている医療機関が増えています。

メーカー間の販売競争も年々激しさを増す中、営業畑出身の私はお客様が抱える課題と目線を揃え、製品の導入によって得られる価値まで含めて提案することで成長につなげたいと考えています。新しい機器を導入することで院内に何をもたらせるのか、患者さんの体験を改善し、治療成果を高め、医療従事者の負担を減らし、経営を健全にする。フィリップスは医療業界が「クアドルプルエイム」と呼ぶ4つの目標に沿って、製品開発を進めています。

急速に進む少子高齢化など、日本が抱える課題は、ヨーロッパをはじめとする先進各国にも共通します。日本がこれにどう向き合い乗り越えるか。ここで得られる知見は、世界にとっても大きな示唆となるはずです。

(構成=渡辺一朗 撮影=宇佐美雅浩)

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