「寿命死」の謎を解く

人は、高齢になると身体のさまざまな働きが衰えてくるために死に至るのだ。老衰患者の死に至る経過は、認知症と似ている。図表1のCが示すように、寿命に達した患者は、少しずつ体力と体重が落ちて、食事がとれなくなり、おそらく余り苦しむこともなく、平穏に死んでいく。その意味で、認知症も一種の老衰といってもよいのではなかろうか。

【図表1】心臓病・がん・認知症の進行
出所=『高齢者よ、君たちはどう生きるか』(幻冬舎新書)

※3 Murray, S. A., et al. (2005). Illness trajectories and palliative care. BMJ, 330(7498), 1007-1011.

ここで重要な疑問が出てくる。

なぜ、寿命があるのか。何が寿命を決めているのか。考えてみれば、ヒトが成長するプロセスは、スケジュールされているとしか思えない。それと同じように寿命もスケジュールされているのだろうか。

老衰を手がかりに、寿命の問題に迫るのには新しい名前が必要と考え、私はそれを「寿命死」と呼ぶことにした(図表2)。

【図表2】年齢ごとの死因の割合
出所=『高齢者よ、君たちはどう生きるか』(幻冬舎新書)

※4 厚生労働省「人口動態調査(確定数)2024年、上巻5-15『死因(死因年次推移分類)別にみた性・年齢(5歳階級)・年次別死亡数及び死亡率(人口10万対)13老衰』」

「老衰死」は医療費の削減につながる

日本の老衰の現状と寿命死という概念を英文で論文に書いたが、どのジャーナルも採択してくれなかった。「WHOの壁」のためである。どこにでも、「壁」があるものだ。

日経新聞は、全国130市区の老衰死と後期高齢者医療費の関係を調査した。その結果、老衰死の多いところでは医療費が少ないことが分かった。老衰死の一番多いのは茅ヶ崎市(神奈川県)、少ないのは大阪の茨木市などであった。

最大と最小の差は6.8倍にも達する。医療費は老衰死と逆相関し、茅ヶ崎市の医療費は全国平均よりも15%も少なかった。もし、全国が茅ヶ崎市と同じ医療費レベルになれば、全国では2兆3000億円の節減になるという。老衰死は、患者にも財政にも優しいことが分かった(※5)。

※5 日本経済新聞「特集3大死因と医療費の地域格差 TOPICS 06 『老衰』の地域格差」

おばあさんの手を握る手
写真=iStock.com/seb_ra
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