「渡辺王国」で起きた保守分裂

なぜ、追い風の選挙でこれほど不可解な敗北を喫したのか。その背景には、地方政界特有の血で血を洗う権力闘争がある。

2021年の衆院選では、簗氏と立憲民主党候補の一騎打ちとなり、自民公認の簗氏が順当に勝利を収めた。しかし、2024年の衆院選では、状況が変わる。保守系無所属新人として出馬した渡辺真太朗氏にわずか178票差まで迫られた。そして、2026年2月の再戦では、渡辺氏が5万8483票、簗氏が5万3975票となり、簗氏は小選挙区で敗れて比例復活したという猛烈な「保守分裂選挙」となっていたのだ。

この渡辺氏を裏で担ぎ上げたのが、他でもない、那須烏山市や那珂川町の自民党地方議員や首長たちだった。

もともとこの2つの自治体は、かつて自民党内で派閥を率いた大物政治家・渡辺美智雄氏が強固な地盤とした、いわゆる「渡辺王国」である。美智雄氏の死後は息子の渡辺喜美氏が地盤を引き継いだが、のちに自民党を離党。その後釜として公募で選ばれ、東京からやってきたのが簗氏だった。地元からすれば「よそ者」という烙印を押されながらも、簗氏は当選を重ねて自民党公認候補としての地位を築いてきた。

そこに目をつけたのが反簗派である。今回出馬した渡辺氏は、実は渡辺美智雄・喜美親子とは一切の血縁関係がない。一方、渡辺氏自身は那須烏山市出身で、地元に根を張って活動してきた。かつて「渡辺王国」と呼ばれた地域で、東京出身の簗氏と地元出身の渡辺氏が争う構図となった。有権者のなかには、同じ渡辺姓であることから、渡辺家の系譜を引き継いだ候補者かと勘違いする人も少なくなかったという。

2024年10月の衆院選で簗氏が敗れた対立候補の渡辺真太朗氏。自民党が割れる保守分裂選挙だった(出典=渡辺真太朗氏のホームページ)
2024年10月の衆院選で簗氏が敗れた対立候補の渡辺真太朗氏。自民党が割れる保守分裂選挙だった(出典=渡辺真太朗氏のホームページ)

反党行為に下された「甘い処分」

結果として、今年2月の衆院選では無所属の渡辺氏が小選挙区を制することになった。この時、最も露骨な動きを見せたのが先述した2つの自治体である。

例えば、那須烏山市の川俣純子市長。彼女はこれまで一貫して自民党推薦で当選を重ねてきた自民党籍を持つ首長である。それにもかかわらず、公然と無所属候補である渡辺氏を支援したのだ。

自民党の公認候補がいる小選挙区で別の候補者を応援することは、党内において最も重い「反党行為」に当たる。当然、厳罰に処されてしかるべきだ。しかし不可解なことに、選挙後に自民党栃木県連が下した処分は、極めて軽い「戒告処分」にとどまった。この不公平で歪んだ対応こそが、地方政界の異様な力関係を物語っている。