映画「トップガン」で描かれるような戦闘機同士のドッグファイトは、実在するのか。地政学者・戦略学者の奥山真司さんは「映画に登場するような戦闘機同士のドッグファイトは、現在ではほぼなくなりつつある」という――。

※本稿は、奥山真司『戦略論入門 自衛隊幹部学校 講義録』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

グラマンF14トムキャット
写真=iStock.com/Kirkikis
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「空から地上を攻撃」という発想

1903年12月17日、米ノースカロライナ州キティホークで「ライトフライヤー号」が初めての有人飛行を記録しました。飛行機を発明し、パイロットを務めたのは、かのライト兄弟。「空を飛びたい」という人間の長年のロマンが実現した瞬間でした。

そして、人が活動するようになった領域は戦争にも使われることになるという、ロマンだけでは済まない現実も追いかけてきます。

そこで「空から地上を攻撃すれば、無敵なのではないか」と考えたのが、1920年代にイタリア陸軍の軍人であったジュリオ・ドゥーエです。

イタリアは空からの攻撃、いわば空爆や空襲に相当するものをすでに1911年の伊土戦争で行っています。この時は飛行機と飛行艇から行われたもので、飛行機の初めての実戦使用と言われています。飛行機以前にも気球を使って遠方の偵察や、爆弾を投下した事例はあったのですが、有人飛行機を戦争で使ったのはこの時が初めてでした。

イタリアからエアパワーの議論が出てくるのも自然な流れで、ドゥーエは1921年に『制空(Command of the Air)』を刊行。「とにかく空爆すれば戦争に勝てる」「陸軍も海軍も要らない」「空から敵の物心両面を破壊すべし」と説きました。

エアパワー最強幻想の落とし穴

1918年に終結した第一次世界大戦により、戦争は軍隊だけが戦うのではなく、国民もあらゆる面で参加・動員させられる「総力戦」の時代に入りました。対兵力(カウンターフォース)の時代から、対価値(カウンターバリュー)、さらに対都市(カウンターシティ)の時代に入ったのです。

そのため、ドゥーエも「無差別爆撃によって民衆がパニックを起こし、厭戦気分が蔓延すれば早く戦争は終わる」「そのためには空から投下する焼夷弾はもちろん、毒ガス攻撃も検討すべし」などと穏やかでないことを書いています。

陸や海の場合はそれまでの戦争の経験から傾向や普遍的な要素を抽出するものでしたが、空の場合は違いました。まだ十分に航空戦が行われていない段階で、理論から先に発展したのです。

しかしその分、多分に「ロマン含み」というか、希望的観測を多く含むことになりました。「エアパワーだけで勝てる」「兵士を戦場に送り込む必要が格段に減る」「地形や海岸線の影響を受ける陸海軍とは違い、飛行機はどこにでも自由に行って、帰ることができる」「空を飛ぶ飛行機には、地上からは手出しできない」といった利点ばかりがクローズアップされていたのですが、それ「だけ」で勝てるほど戦争は甘くはなかったのです。