慣れるものでも鍛えられるものでもない
ここで、「マルチタスクは慣れればうまくなる」「自分はマルチタスクが得意なほうだ」と思っている人にこそ、知ってほしい研究があります。
スタンフォード大学の研究で、日常的にパソコンをしながらスマホで返信するなどのデバイスの並行使用をする人と、そうでない人のマルチタスク能力を比較したものがあります。
直感的には、日々マルチタスクに慣れている前者のほうが得意なはずです。ところが結果は逆でした。
前者は後者と比べて、注意のフィルタリング、タスクの切り替え、作業記憶のすべてで、有意に成績が低かったのです。
ただし、これらは横断的な比較であり、「マルチタスクが原因で脳の機能が下がる」という因果関係まで証明されたわけではありません。
それでも、マルチタスクは少なくとも「鍛えれば上達するスキル」だとは言いにくく、関連する研究はむしろ、マルチタスクは注意や記憶の弱さと結びつくことを示しています。
注意は「配分される資源」
ここで大切なのは、注意を「配分される資源」として見ることです。
ハーバート・サイモンは、「情報が豊かになるほど、それを受け取る側の注意が希少になる」と言っています。これが、いわゆる「アテンションエコノミー」の出発点で、現代のSlack、メール、SNS、ニュースアプリは、どれもあなたの注意を奪い合っています。
未読バッジ、通知音、赤い丸。通知が来るかどうかは予測できず、開いてみるまで何が来ているかもわかりません。
この予測不可能性そのものが、私たちの注意を強く引きつけ、繰り返しチェックする習慣を強めます。
予測できない報酬ほど、人はつい確認したくなるのです。意志だけで抵抗するのは、簡単ではありません。あなたの注意を少しでも長く引き止めるために、世界トップクラスの専門家たちが検証に検証を重ねて最適化し続けているプロダクトなのです。
だから、通知を切ることは、自分の注意の配分を、自分の仕事に取り戻すために必要です。
私はこの本を書いているあいだは、Slackやメッセンジャーを切っています。仕事を進める頭と、文章を書く頭は、まったく違っていて、両方に注意を払うことは、非常に非効率だからです。

