ニューヨーク市長に異色の政治家、ゾーラン・マムダニが就任した。明治大学経営学部教授の山崎憲さんは「マムダニ躍進の核心は社会主義政策ではなく、300万軒以上にのぼる地道な戸別訪問の積み重ねにある」という――。
ブルックリンの住宅地
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公約の財源は富裕層と大企業への増税

アメリカでは民主社会主義を掲げる政治家が支持を広げており、日本の新聞はこれを「急進左派」と呼ぶ。資本主義のルールそのものを書き換える勢力、という含みがある。

だが、実際に体制の転換が試みられているわけではない。その象徴であるニューヨークのマムダニ市長が市役所に持ち込んだのは、選挙で使った戸別訪問だった。日本が学ぶべきものは、政策そのものよりもその手前にある。

2026年1月、ゾーラン・マムダニがニューヨーク市長に就任した。民主社会主義を掲げる34歳である。家賃の値上げを凍結する。バスを無料にする。保育を無償にする。市が食料品店を運営し、財源は富裕層と大企業への増税に求める。

マムダニ自身、みずからをフランクリン・ルーズベルトの系譜に置き、民主社会主義者は民主党がニューディールで持っていた原点を取り戻しているのだと語っている。体制の転換ではなく原点回帰だ、という言い方である。

民主党支持者のあいだで「社会主義」に好意的な人が増えているのは確かである。ところが無党派層になると、富裕層増税や全国民向け医療保険には賛成しても、「民主社会主義者」という看板には抵抗を感じる人が少なくない。

10万人超のボランティアが300万軒を訪問

マムダニを早くから支えたDSA(Democratic Socialists of America=アメリカ民主社会主義者)は、全米に支部を持つ社会主義組織である。民主党のような選挙政党ではなく、地域支部が候補者を推薦し、会員が戸別訪問や電話かけを担う。

その綱領は、大企業や重要産業の社会的所有、労働組合の強化、外交の転換まで掲げる。ところが選挙では、「家賃が高い」「保育料が払えない」「食料品が値上がりした」「働いているのに暮らしが楽にならない」ということを丁寧に聞くことから始まった。

マムダニに賛同したのは、民主社会主義に魅力を感じた人だけではない。交通の不便さ、社会保障の穴、放置されたままの道路、相談する相手もない孤独、名前のつかない不安と、抱えているものはばらばらで、意見も違う。それでも同じ場所に集まっている。マムダニの市長選には10万人を超えるボランティアが参加し、300万軒以上を訪ねて話を聞いた。

米ニューヨーク市のマムダニ市長(=2026年7月7日、アメリカ・ニューヨーク)
写真=EPA/時事通信フォト
米ニューヨーク市のマムダニ市長(=2026年7月7日、アメリカ・ニューヨーク)