結局は「辛抱なく」外に出たのではないか

――ご自身に向けられた言葉ではありませんよね。それがなぜ……。

自分でもうまく言葉にできないんです。でも、その「事業は辛抱や」という一言が、自分に言われているように感じてドキッとした。

丸紅には海外留学もさせてもらったし、若いうちにトルコやUAEの大型案件も任せてもらった。会社にそれだけの成長機会を与えてもらいながら、結局は「辛抱なく」外に出たのではないか、と。そう言われている気がしたんです。その瞬間に「丸紅に戻ろう」と思いました。

そこには、もう一つの理由があります。一度外に出たことで、丸紅という会社の魅力や強さに気づくことができた。

マッキンゼーの問題解決の思考法の一つに「分析とは比較だ」というものがあります。世界中のベストプラクティス(最善の方法)とクライアントの事業を比較し、その差分から意味合いを見出す。でも、よく考えると丸紅がこれまで成功してきたビジネスも、実は同じ発想のもとに築き上げていたんです。その価値創出のプロセスは、「世界一のコンサルファーム」となんら変わらない。

しいて違いを挙げるなら、丸紅は自分で「実践」するところです。コンサルの価値創出の思考法はすばらしいけど、その後の交渉やオペレーションまでは踏み込まない。でも、丸紅はそこまでやりきる。その「一線を超える」力は、マッキンゼーにはない強みだと再確認できました。

「事業は辛抱や」という言葉で、丸紅への復帰の想いが確固たるものになった
撮影=門間新弥
「事業は辛抱や」という言葉で、丸紅への復帰の想いが確固たるものになった

「周りにどう見られるか」は関係ない

――1年半という短期間での復帰には、否定的な声もあったのではないですか。

「1年半で戻ったのは、通用しなかったからだろう」と思われた方はたくさんいると思います。でも、「周りにどう見られているか」は、自分の成長には何の関係もありません。

大事なのは、自分が最も成長できる場所はどこか。そして、最もインパクトを与えられる場所はどこか。その2つの判断軸で考え、導き出した答えが、丸紅だった、ということです。

世界中を見て、いちばんいいものを持ってくるという丸紅の感覚は、マッキンゼーの戦い方と重なります。だからこそ、古巣に戻ることで、マッキンゼーで学んできたことが活かせて、自分の成長にもつながる、と思ったんです。

事実、マッキンゼーで鍛えられた構造化・概念化のスキルは、丸紅に戻ってから明確に武器となりました。商社というものは事業の数が膨大ですから、「全体で見てどうなのか」を語らなければいけない場面が絶えずある。全体を構造化し、一段抽象度を上げて人に伝えるスキルはものすごく重宝しました。その意味で、自分をパワーアップさせてから戻ってくることができた、と思っています。