高校生の頃から禅と日本文化が好きだった
鉄道の仕事は24時間365日、連続しています。夜間も働いている社員がいますし、事故や故障があれば真夜中でも連絡がきます。いつもどこかで身構えており、完全に緊張が途切れることはありません。そのような日々にほんのひと時でも、心を空っぽにする機会をつくりたい。そう思って、坐禅を始めました。
鈴木大拙の『禅と日本文化』は、高校生の頃に読んで以来の愛読書です。その頃から禅を中心とした日本文化には興味があって、岡倉天心の『茶の本』や和辻哲郎の『古寺巡礼』『日本倫理思想史』などを読んできました。10年前に執行役員になった頃だったでしょうか。ふと「坐禅をやってみたい」と思ったのです。最初は見よう見まねでしたが、坐禅は様式美でもあります。形から入り続けていたら、少しずつ禅の境地に近づけているように思います。
私は朝が早く、午前4時には起きています。顔を洗って部屋着に着替え、自室に戻って神棚に御水をお供えして手を合わせてから、坐禅に臨みます。背筋を伸ばし、半眼で視線を落とし、静かに吸った息を丹田(へその下あたり)に落としていきます。考えごとは追いかけない。ゆっくりとした呼吸を幾度か重ねていると、意識がすーっとクリアになっていくのを感じます。
坐禅を解いたら、そのまま自室で5時半頃まで、本や新聞を読んでいます。1日の内この1時間半が唯一、一人きりになって自分を見つめられる時間です。日中は慌ただしく気が急くこともありますが、ふとした瞬間に「別の角度から眺めたら違った景色が見えるかもしれない」と気づきを得ることがあります。そうやって、連続した思考に区切りをつくれるようになったのは、坐禅の効果かもしれません。
今日は、高輪の泉岳寺(東京都港区)に坐禅を学びに来ました。私は忠臣蔵が大好きで、学生の頃から毎年12月14日に催される「赤穂義士祭」の機会などに参拝していますが、書院に入れていただいたのは初めてです。義士たちが吉良邸討ち入りの翌日に書院に寄った話は有名ですが、戦災で焼失したままになっていたのを、2014年に再建したそうです。庭園に向かって座蒲を整え、坐禅を組む。止静鐘の音を合図に視線を落とし、呼吸に意識を集中します。泉岳寺は都市の只中にありながら喧噪からは隔絶され、静寂に包まれています。春の柔らかな陽光や流れる雲の音さえもが、聞こえてくるようです。心が落ち着いて、清らかな気持ちで満たされていきます。
アセットを使って社会をよくしていきたい
坐禅を終え振り返ると、山門の向こう側には真新しい高層ビルの一部が見えます。高輪ゲートウェイシティ(※)――。JR東日本が品川車両基地跡地の約13ヘクタールに、約20年の歳月をかけてつくり上げた街区です。4棟の建物から構成されるこの街のコンセプトは「100年先の心豊かなくらしのための実験場」。私たちはこの街に集う企業、スタートアップ、アカデミズムのみなさんとともにさまざまなイノベーションを興し、国内はもとより世界に向けて発信していきたいと思っています。
※正式名称は“TAKANAWA GATEWAY CITY”
ロボットが街中を巡回し、自動走行のモビリティが人々を運びます。28年には空飛ぶクルマが羽田や成田と結び、首都圏や東北・上信越を行き来するツアー飛行を運航する計画もあります。ショッピングモールには斬新さとともに周辺地域のみなさまも気軽にお買い物いただける店舗を揃えますし、緑と木で形づくる文化創造施設「MoNTakanawa」では最新デジタル技術を採り入れた「忠臣蔵」が上演されるかもしれません。高輪ゲートウェイシティは3月27日に開業します。ぜひお越しになって、未来を体感してください。
私は、国鉄が民営化されJR東日本が発足してから入社した世代の最初の社長であり、その立場の重みを強く感じています。就任以降、上越新幹線のドライバレス運転、Suicaのサービス拡充とセキュリティ強化を進める「SuicaRenaissance」、次期東北新幹線「E10系」、列車荷物輸送サービス「はこびゅん」の事業化など、次の成長に向けた施策を打ち出してきました。
最近は社員の意識が大きく変わり「JR東日本グループのアセットを使い社会をよくしたい、成長を進めていきたい」という熱意が伝わります。変革の確かな手応えを感じながら、未来を創造しています。
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