※本稿は、本田直之『セカンドハーフ戦略 人生後半戦、何を捨て、何を始めるか』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
「老化」はどこから始まるのか
老いは、どこから始まるのか。
多くの人は、まず身体を思い浮かべる。体力が落ちる。筋力が落ちる。疲れやすくなる。見た目が変わる。
あるいは、記憶力を思い浮かべる人もいる。名前が出てこない、物忘れが増える、新しいことを覚えにくくなる。
でも、老年精神医学の和田秀樹さんは、別の見方を示している。
和田さんに、『50歳の分岐点』(大和書房)という本がある。老いというと、普通は体力や記憶力を思い浮かべる。でも和田さんは、老化は感情から始まると書いている。
これには、脳の仕組みの裏づけがある。
意欲や感情をつかさどる前頭葉は、40代から50代にかけて縮み始めると言われている。物忘れの正体である海馬の衰えを実感するのは、もっと後だという。
つまり、多くの人が「老化の始まり」だと思っている記憶力の低下より先に、感情のほうが静かに錆びついていく。
老いは、弱ってから気づくのでは遅い。まだ大丈夫なうちに、どういう変化が起きるのかを知っておく。それだけで、対応はまったく変わるのだ。
身体や顔の老化には、多くの人が気づく。体重が増えた、肌がたるんだ、疲れやすくなった、筋力が落ちた。こういう変化は、数字や鏡で確認できる。だから対策もしやすい。
しかし、意欲や感情の老化には気づきにくい。
たとえば、何をするにも面倒になる。新しいことを覚えるより、いつものやり方で済ませたくなる。何を見ても、何を聞いても、「ふーん」で終わってしまう。
年齢を重ねていくと、本人にもまわりにも、ただの「無気力」にしか見えない様子を隠しきれなくなる人がいる。
感情の老化は、外からは見えにくい。体重や血液検査の数値のように、はっきり見えるものではない。
だから本人も気づかないまま、少しずつそういう方向に寄っていく。
「変えたいのに、動けない」の正体
感情の老化とは、怒りっぽくなることだけではない。
本当に怖いのは、面白がれなくなることだ。
何かを見て「面白そう」と思えない。知らない世界に入ってみようと思えない。自分とは違う人の話を聞こうと思えない。若い人の感覚に、一度乗ってみようと思えない。
これは、ただの性格の問題ではない。脳の使い方とも関係している。
ハーフタイムシフトは、人生の予定を組み直すだけでは終わらない。
予定を変えても、住む場所を変えても、仕事の量を変えても、自分の脳と感情が動かなければ、結局は慣れた場所に戻ってしまうからだ。
面倒くさい。失敗したくない。今のままで困っていない。もう十分だ。
そう感じること自体は自然だ。年齢を重ねれば、経験も増える。失敗もしてきた。無駄なことも見てきた。だから、何でもかんでも新しくすればいいという話ではない。
でも、その感覚が強くなりすぎると、人生は少しずつ閉じていく。
後半戦の戦い方を変えるには、外側の環境だけでなく、それを動かす自分の脳と感情も使える状態にしておく必要があるのだ。
ここを見落とすと、「変えたい」と思っているのに、なぜか動けない、ということが起きる。

