葛西紀明(ソチ五輪日本代表選手団主将)
ソチ冬季五輪がやってくる。その壮行会&結団式の決意表明で、日本選手団主将の葛西紀明がコトバに力を込めた。
「一人ひとりが不撓(とう)不屈の精神で取り組んできたトレーニングと、ソチに向ける熱い思いをチームジャパンとして集結し、一意専心、競技に挑みます」
まるで大相撲の大関昇進力士の口上のごとき、四字熟語である。『不撓不屈』は強い意志を持って、どんな苦労や困難にもくじけないこと。『一意専心』は他に心を動かされず、ひたすら一つのことに集中すること。主将としては日本選手団史上最年長となる41歳が、照れながら、そのココロを説明する。
「四字熟語がたくさんはいって、噛みそうになりながらの決意表明でしたけど、ひとつのことをあきらめずにやっていくこと、強い気持ちを持って意志を曲げないと、そういう思いを込めました。そんな思いで戦い、メダルがとればいいと思っています」
ご存じ、日本のスキ―・ジャンプ界を長年リードしてきたエースである。19歳で出場した1992年アルベールビル五輪以来、リレハンメル、長野、ソルトレークシティー、トリノ、バンクーバーと冬季五輪に出場してきた。こんどが7度目の五輪出場となる。
身体を深く前傾させるジャンプ時の独特の姿勢もあって、海外メディアからも人気がある。かつては『カミカゼ・カサイ』の異名をとり、最近は『レジェンド』とも称される。そう呼ばれることについてどうか? と聞かれると、「まんざらでもない気持ちです」と楽しそうに笑った。
「でも、まだまだ。レジェンドといっても、オリンピックの金メダルがない。それを取ってから、僕のほうから“レジェンド葛西”だと言いたいなと思っています」
北海道上川郡出身。札幌冬季五輪が行われた1972年に生まれ、10歳でジャンプをはじめた。すぐに頭角を現し、ジュニアの部で優勝を重ねた。当初、難病と闘っていた妹のために五輪金メダルを目指していたというのは有名な話(既に妹は難病克服)。
20年余も世界のトップクラスで活躍し、この1月、オーストリアで開かれたフライングヒルで10シーズンぶりに優勝し、スキ―ジャンプ・ワールドカップ(W杯)史上最年長優勝記録(41歳7カ月5日)を達成した。その強じんな身体能力とタフな精神力は驚くばかりである。
「僕は非常に調子がよくて、ワールドカップでも優勝ができている。(五輪の)開会式の後、すぐにノーマルヒルの公式予選があるので、まずは僕自身がメダルを取れるくらいに調子を上げていきたい。できれば一番輝くメダルを取って、(日本選手団に)勢いをつけたいと思います」
2020年東京五輪パラリンピックの開催が決まって最初の五輪でもある。主将は、使命感をおぼえている。
「東京が決まったことを非常にうれしく思っています。それまでにリオ(ブラジル)、ピョンチャン(平昌=韓国)もありますので、そういった五輪に勢いをつけるという意味でも、(主将として)たくさんメダルを取りたいな、取らせたいな、という気持ちでいます」
40歳を超えても、まだ世界の舞台で頂点に挑みつづける。ソチの地で、新たなレジェンド(伝説)が創られるかもしれない。