「内容はいいのになぜか相手に伝わらない、企画が通らない」。ちょっと待って! その思い込みを捨てることから始めよう。「いいものと通るものは違う」と断言し、通すコツを教えるのは「本屋大賞」の仕掛け人・博報堂ケトル代表の嶋 浩一郎氏だ。
相手の心を掴み、イエスと言わせたいなら言葉一つにも注意を払うべきだ。
やってはいけないのが、独りよがりの言葉を羅列すること。内容に自信があるときほど陥りがちだが、ここで重要なのは相手に合わせた言葉選び。年齢、役職はもちろん、提案に対する立ち位置も見極めたい。どんどん新しいことを取り入れたいと思っている人もいれば、現状維持で十分と考える人もいる。後者の人に対して斬新な言葉をちりばめた提案書を見せても、通らないのは当然だろう。
かつて僕は「少年マガジン・少年サンデー50周年キャンペーン」に関わったことがある。二大週刊少年漫画雑誌が、同じ年に創刊50周年を迎えるということで初めてコラボしたこの企画。どのくらいインパクトがあるものなのか、関係者やメディアの人々にプレゼンをする機会があった。そのとき、聞き手に年配の男性が多いことに着目し、こう切り出した。「巨人と阪神がドリームチームをつくるような企画です」。
結果、意図をすぐに理解してもらえた。もし相手が若い人だったら、AKB48と少女時代がコラボする夢の共演と説明したかもしれない。相手に合わせたたとえ話や言葉は成否を分けるポイントとなるのだ。神は細部に宿る。疎かにしてはならない。
ふだんタイトルをつける機会はあまりないかもしれないが、雑誌や本のタイトルから学ぶこともできる。雑誌や本のタイトルは、どの層を狙うかによって巧みに言葉を選んでつけられているからだ。『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』は以前ベストセラーになった新書だ。誰もが一度は感じたことがある疑問を前面に出して興味を引いた。副題の「身近な疑問からはじめる会計学」から、会計学の本でかつ会計の知識がない層がターゲットだとわかる。『会計学入門』というタイトルにもなりえたはずだが、「さおだけ屋」をフックに、より幅広い層にアプローチすることに成功した例だ。