「それまで子ども向けの玩具ばかり作っていたんですけど、玩具だと機能を含めて限界があるじゃないですか。ボッコを見た時に、子どもだけじゃなくて大人にも刺さるかわいらしいロボットっていいな、自分自身が欲しいものが世の中にもっとあってもいいと思ったんですよね。それで、転職を決めました」

2016年春、CMOとしてユカイ工学に入社。最初の仕事はボッコの販路を拡げつつ、ボッコを活用したいクライアントを開拓し、ともに新しいサービスを開発することだった。

例えば、東京ガスと組んで2019年にリリースした子育て応援サービス「まかせて!BOCCO」は、オーディオブックの読み聞かせや「おはよう」「おやすみ」などの発話による子どもの生活リズムサポートを提供している。

セコムとは2018年、高齢者のQOL維持・向上を目的とするコミュニケーションサービスの実証実験をスタート。これがセコム、DeNAとの共同開発に発展し、2023年、新型の「BOCCO emo(ボッコ エモ)」を活用したシニア向けの双方向コミュニケーションサービス「あのね」につながった。

ほかにも複数の企業と連携して利用シーンを拡充することで、ボッコシリーズは累計2万台を出荷している。

誰にも共感されなかった「甘噛み」

ここまで記した通り、冨永さんの仕事はロボットの企画、開発ではない。それではなぜ、冒頭に記した「甘噛みハムハム」「猫舌ふーふー」「みるみ」が誕生したのか? そこには、ユカイ工学独自のものづくりイベント「メイカソン」と「妄想会」がある。

冨永さんが入社する1年前から始まったメイカソンは、年に一度、全社員が参加して開催される合宿で、部署を問わず5~6名が1チームになり、合宿の2、3カ月前からアイデアを出し合う。そのなかで支持を得たものを試作し、合宿当日にプレゼンする流れだ。

メイカソンでプレゼンする冨永さん
画像提供=ユカイ工学
メイカソンでプレゼンする冨永さん

タカラトミーでアイデア力に磨きをかけた冨永さんだが、当初は「玩具の領域を超えた企画」を考えることに苦労したという。「玩具の企画とは違う脳みそを使うこと」にようやく慣れ始めた2020年のメイカソンで採用されたアイデアが、「甘噛みハムハム」だった。

「息子の歯が生えたての時期に甘噛みをしてきたんですよね。これって痛気持ちいいなと思いつつ、他人を噛んじゃいそうだから、甘噛みをするたびにダメって躾けていたんです。でもある日、こんなに痛気持ちいい行為をなぜ禁じないといけないのか、疑問に思ったんですよ。それで、甘噛みされたい葛藤から親たちを解放しようと思って、指を入れたら甘噛みするロボットを思いつきました」

「またですか?」と呆れられても試作した

その感覚、理解できる! という人は多くないだろう。実際、メイカソンに向けたアイデア会議では、チームの誰ひとり共感することなく「あー、面白いですね。 じゃあ、次行きましょうか」と一瞬で流された。

冨永さんは、ここで粘る。翌週のアイデア会議で、再び甘噛みロボットを提案したのだ。そこでも「またですか?」と呆れられ、決して芳しい反応は得られなかった。

しかし、「とりあえず、タッチセンサーで指を入れたらガブッって噛むような仕掛けだけ作ってほしい」と頼み込み、「そこまで言うなら」とチームメイトの了承を得る。「どのアイデアもプロトタイピングする価値がある」と考えるユカイ工学の社内には、思いついたものをすぐに試作できるような設備が整っている。このときも、チームメイトのエンジニアが試作を手伝ってくれた。

買ってきたネコのぬいぐるみに、タッチセンサー付きの口をはめ込む。指を入れると、「なんとも言えない、不思議な感覚」がした。その瞬間、「これはいける!」と直感した。

この試作機でチームメイトの評価も一転し、メイカソンでプレゼンするアイデアのひとつに選出。迎えた当日、プレゼンを終えた後には、甘噛みされたい社員が列を作り、商品化への道が拓けた。このときに実感したのは、「作って体験してみること」の重要性だ。

「どこの会社も、アイデアを紙のままで終わらせることが多いと思うんです。それで不採用になって消えていくアイデアのなかには、実際に作ってみるとめちゃくちゃ面白いものもいっぱいあるはずなんですよ」