住所は、建物や土地の場所を正確に示すためのものだが、地域によっては珍しい表記も存在する。デジタルクリエイターの河合太郎さんは「独自の文化や歴史が色濃く残っている京都市がその代表例だ」という――。

※本稿は、河合太郎『ヤバい日本の住所』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

京都、夕暮れの街並み
写真=iStock.com/SeanPavonePhoto
※写真はイメージです

京都の住所にある謎の「上る」とは?

京都市に観光に行かれたことがある方は、一風変わった住所の表記に気付いたことがあるかもしれません。たとえば京都市役所の、ウェブサイトに記載されている正式な住所は以下の通りです。

・京都市中京なかぎょう区寺町通御池上る上本能寺前町488

やけに長い上に、ちょっと他では見たことがないような表記です。「上る」って何でしょうか。この住所表記の構造は、実は以下のようになっています。

・京都市中京区:京都市の中京区で、
・ 寺町通御池上る:寺町通を、御池通との交差点から北上したところにある
・上本能寺前町488:上本能寺前町の488番地

つまり、ある交差点からいずれかの方向に向かって進んだところにうちはありますよ、という相対的な表現になっているんですね。道案内をするときの口上をそのまま住所表記にしてしまったようなものです。

これは京都市、それも平安京に端を発する旧市街を中心として使われている住所表記で、京都における通り名を用いた地名表記の方式、あるいは短く京都通り名方式などと呼ばれています。基本的に道が東西南北に規則的に走っている京都市街だからこそ有効な仕組みで、実際に京都で使うとなかなか便利なものでもあります。

現代に残る「住所界の生きる化石」

道路の名前を用いた表記なので、欧米に見られる道路名ベースの住所システムと同一に語られることもありますが、まったく異なる仕組みであり似て非なるものであることには注意してください。

道路名ベースの住所システムは「道路とそれに面する建物」に番号を振っていくものですが、京都の通り名方式は基準点からの相対的な方角指示であり、前述したように住所システムというよりは道案内です。


古来の住所表記(※)が現代に生き残っている稀有な例と言ってよいかもしれません。住所界の生きる化石です。それにしても京都市は現状日本の他のどこでも使われていない、まったく独自の住所表記方式を、それも市役所が率先して使っているわけです。

※古来の住所表記は、それぞれの人がどこに住んでいるかを特定さえできれば済んでしまい、正確な住所の表記でなくても何とかなっていた。

実際に、住民票などの公的な書類にもこの通り名方式の住所が記載されています。他地域の人からすれば、ずいぶん自由だな、と思うところかもしれませんが、京都の人にしてみれば、そない言わはってもうちら先の戦争の前からこないしてますさかいに、というわけで、住居表示だの地番だのがむしろポッと出の新参者と言われればグゥの音も出ません。

なお、ここで言う「先の戦争」とは第二次世界大戦ではなく、もちろん応仁の乱のことです。

では京都通り名の仕組みをもう少し詳しく見ていきましょう。