かしこい子どもを育てるために、親はどんなことをすべきなのか。行動遺伝学者の安藤寿康さんは「残念ながら一般的な賢さは育てることができない。親が子にできることは限られている」という。作家の橘玲さん、進化生物学者の河田雅圭さんとの鼎談を紹介する――。(第3回)
行動遺伝学者から見た「賢い子育て」の不都合な真実
橘玲:作家
河田雅圭:進化生物学者、『心はどこまで進化したのか』著者
安藤寿康:行動遺伝学者
橘:「賢い子どもを育てる科学的に正しい方法」についての本や記事がよく読まれていますが、お二人はどうお考えですか?
安藤:みんな知りたいですよね。
橘:中央実行ネットワーク(※)の遺伝率が9割で、それが認知能力と強く相関するとなると、賢い子どもに育てるというのはそもそも無理ではないでしょうか。
※=脳のワーキングメモリ(作業記憶)の中心にある、注意のコントロールや情報の処理を行う司令塔の役割を持つしくみ。
安藤:「遺伝=決定」ではない。しかし「無理」と言い切ったほうが救われる人は多いですね。
一般的な賢さ、Gファクター(全ての知的作業に共通して必要な一般知能)は、CPUがもともと持っているものだから、基本的には育てられないと考えてもいい。
ただ、人がリアルに生きるのは、せいぜい150人程度の人間関係の場で、そこではユーモアや場を和ませる力など、一般的な知能とは別の持ち味が意味を持ちます。それがその人の個性で、固有の遺伝的な違いが表に出るんです。
希望があるとすれば、CPUは変えられないけれど、どのソフトをどう組み合わせるかは、学習と経験で変えられる。「やさしさ」自体は訓練で変えられないけれど、相手が今どういう状況かは知識として学べ、それによって自分のやさしさをどこでどのように示せばよいかは変えられます。ジェネラルな能力だけでは説明がつかない部分に、期待はかけられると思っています。

