わたしたち人間の知能や性格は、どこまで生まれつきなのか。『心はどこまで進化したのか』(河出書房新社)の著者で、進化生物学者の河田雅圭さんは「学力や性格など、人のさまざまな性質の違いの半分近くが、ゲノム配列の違いで説明できるようになっている」という。作家の橘玲さん、行動遺伝学者の安藤寿康さんとの鼎談を紹介する――。(第1回)

人間の「心」は遺伝の影響を受けている

橘玲:作家
河田雅圭:進化生物学者、『心はどこまで進化したのか』著者
安藤寿康:行動遺伝学者

橘:これまで日本の人文科学・社会科学は人間の心理や行動が遺伝・進化の影響を受けていることをタブー視して認めず、子育てや教育のような環境のみで語ることを「政治的に正しい(ポリティカリー・コレクト)」としてきました。

河田さんのような進化生物学の立場では、人間や社会を自然科学に基礎づけることは当然でしょうが、人文系の人たちの認識が変わってきたという印象はありますか?

河田(進化生物学者):多くの人文系の分野では、そもそも人間の心の性質の多くが遺伝的影響を受けて進化した、ということ自体に触れない傾向があります。一方で、進化心理学的な考え方をする人は、人間の行動の一部を、すべての人が持っている普遍的な本能によるものと考える傾向があります。

橘:『心はどこまで進化したのか』を読んで驚いたのは、自然科学のなかでも進化学についての対立があることです。進化生物学と進化心理学で、人類の遺伝と進化についての主張が違っているというのは、はじめて知りました。

大盛り上がりだった鼎談の様子。左が河田氏、右が安藤氏。
画像提供=河出書房新社
大盛り上がりだった鼎談の様子。左が河田氏、右が安藤氏。

「進化=環境に適応して向上する」ではない

河田:「進化」というと環境に適応して向上することだと思われがちですが、そうではありません。進化とは、「ゲノムの情報が世代を経て変化すること」です。心が遺伝情報に影響されているなら、心も進化するはず。

ただ、進化心理学という学問では、狩猟採集時代に獲得された人間の心は、そこから進化していないという仮定を置いています。そのため、現在の人間の個人間でみられる心の性質の違いには、遺伝的な違いがほとんどないと主張しています。

実際には、遺伝情報が変化するなかで心も一緒に変化し、現在でも心の違いには遺伝的な違いが影響しています。進化心理学の脆弱的な基盤については「進化心理学はどこまで正しいのか?」という記事をnoteで解説しています。その点を踏まえ、最新のゲノム科学の成果をもとに「心はいかに進化してきたのか?」を本にして、心がどのように進化してきたのかをまとめてみました。