今年から日本では、健康情報を一元化する「PHR構想」が本格化する。国際ジャーナリストの堤未果さんは「薬を飲むか飲まないかの問題は、個人の意思やプライバシーにかかわるものだった。一括管理により、その聖域が壊されることになる」という――。

※本稿は、堤未果『堤未果の「すばらしい新世界」』(集英社新書)の一部を再編集したものです。

ストレス社員は会社の「潜在的リスク」

2026年現在、多くの日本企業が、健康経営の名の下にスマートウォッチを社員に配付している。日々の歩数や睡眠時間だけでなく、心拍数の変化から計算された「ストレス度」が上司の持つタブレットに表示されるのだ。

ストレス指数が高い社員は、会社にとっての「潜在的リスク」と見なされ、カウンセリングや投薬治療へと誘導される。

〈早期発見、早期治療〉

本人にとっても会社にとっても、早ければ早いほど効率良く対処できるからだ。すでにその仕組みは、多くの職場に静かに根を下ろしている。

こうした装着型デバイスの配付は、経産省が推進する「健康経営優良法人」の認定を目指す、あるいは維持したい大手企業(サムスン電子ジャパン、伊藤忠商事、ソフトバンクなど多数)では、常識だ。

スマートウォッチ
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「三位一体」による健康データ管理

企業はメタボリックシンドローム予備軍と判定された社員に対し、スマートウォッチのデータに基づいた「強制的な保健指導」をする。

そこで着々と進んでいるのが、企業・健保組合・民間保険会社の「三位一体」による、個人の健康データの共有だ。

企業が収集した社員の健康データが、民間保険会社に提供され、「運動しない人は保険料が上がる」という仕組みが普及してきている。

2026年から本格化する、日本政府が推進する「PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)構想」は、単なる健康診断結果のデジタル化ではない。

個人の医療情報と健康診断の結果、そしてスマートウォッチから毎日得られる日々の生体データをマイナンバーに集め、国と企業が共有する巨大なプラットフォームを構築する計画だ。

そのために、2023年に政府が立ち上げた「PHRサービス事業協会」に登録された企業の顔ぶれを見ると、私たち国民のデータを「商品」に変えるプレーヤーが勢揃いしている。