トップシェアの陰で、シャワーを浴びながら嗚咽

この作戦が当たり、大手玩具専門店などのカード売り場でトップシェアを獲得。売り上げを大きく伸ばし、社内で表彰された。……と書くと順風満帆なサクセスストーリーに感じるかもしれないが、実際は幾度も打ちのめされてきた。

例えば、百貨店の売り場にモニターを置かせてほしいと頼み込んでも受け入れてもらえなかった新入社員の時には、用意してもらったモニター販促物などを「無駄にするのか? ちゃんと交渉してこい」と先輩に叱咤され、何度も店舗担当者に説明しに行った。
自分が繰り返し頭を下げてもモニター設置を断られていた店舗に、先輩が電話を一本入れたらすんなり許可が降りて、力不足を実感したことも一度や二度ではない。

商品が想像以上に売れて品薄になり、販売店から「お前、早く商品を持ってこい」「なんでうちに持ってこないんだ。商品を持って来れない営業はうちの担当にいらない」と厳しく問い詰められて、涙を流した夜もある。

「ストレスに圧し潰されそうになって、シャワーを浴びながら嗚咽したこともあります。若い頃はなんでも自分の力でやってやろうと思っていたけど、周りの力を借りないとなにもできないんだと実感しました」

営業時代に教えられたのは、「三現主義」。現場に行って、現物を見て、現実を知るという意味だ。魅力的な商品だからといって、放っておいても売れるわけではない。アイデアだけで、現場は動かない。商品をヒットさせるためには、人と人の関係が欠かせないのだと肌身で感じた営業の4年間だった。

インタビューにこたえる冨永さん
筆者撮影
インタビューにこたえる冨永さん

毎週1000案を出す「アイデアの千本ノック」

6年目の2011年、ベイブレードを開発した当時の専務のもとに新設された部署、新規企画部のニュートイチームに異動になった。ここで、徹底的に発想力を鍛えられる。ミッションは、大人から幼児まで対象を問わず、これまでにない新商品を作ること。メンバーは4名で、上司が1名、開発から2名、そして営業から冨永さんが加わった。

期限は1年。週に一度、専務との定例会議があり、商品企画を提案しなくてはならない。そのために、毎週、4人でアイデアを持ち寄った。専務から課されたお題は、「アイデアを1000個出して、そのなかから3つ提案せよ」。

「玩具業界に『千三つ』という言葉があって、1000個アイデアを出すと 3つぐらい良さそうな案が出てくるという意味なんです。4人で1000個のアイデア出しは、本当につらかったですね。そのなかから3つを選んで提案しても、専務から面白くないと突き返されるのがほとんどでした」

まさに、アイデア出しの千本ノック。生みの苦しみをとことん味わったニュートイチームは、なんとか専務の厳しい審査を突破し、1年で3つの商品化に漕ぎつけた。

その後、多くのアイデアが商品化されたなかで、今も売れ続けているのは手のひらサイズの動かして遊べる動物フィギュア「アニア」。2013年に発売開始以来、シリーズ累計約2000万個を出荷するホームランになった。この商品はどうやって生まれたのだろうか?

1000案から生まれた累計2000万個の「アニア」

「動物フィギュアは昔から社内で検討されていた企画でした。でもなかなか商品化に至らず、ニュートイチームで再検討することになったんです。当時、多くの動物フィギュアが市場にはあったので、それと差別化するためにそれぞれの動物の特徴的な部分が動くと面白いのではないか、とチームで話をしました。。例えば、キリンは首が動き、カバは口がガバっと開きます。そのほうが絶対に楽しいので」

もちろん、作って終わりではない。ニュートイチームでマーケティングをひとりで担っていた冨永さんは、当時の上司と小学館に提案をして、図鑑シリーズ「図鑑NEO」とコラボを実現。「学習要素もある」という売り込みが功を奏し、発売直後から好調な売れ行きを記録した。

ニュートイチームとして何万個とアイデアを出すなかで、冨永さんは「アイデアの方程式」を見つけた。それは5つのパターンがあるそうで、現在も活用しているという。そのうちの2つを教えてもらった。