「コーラを落とすな」という命令の呪い

私が小学2年生のときです。母から頼まれました。

「コーラを買ってきて。地面に落としたら割れるから絶対に落としちゃダメだよ」

初めての一人でのお使いです。当時のコーラは大きな瓶でした。落としたら割れて台無しです。母の「落とさないで!」という言葉が頭の中でこだましています。

ようやく家までたどり着き、玄関で「お母さん、買ってきたよ」と叫んだ瞬間に、なぜか手が滑り、コーラ瓶が地面に落ち、まるで爆発したような音を立てて、すべてを玄関に撒き散らすことに。母が飛んできて、「何やってんの!あれほど落とすなっていったでしょ!」

心理学で「否定命令」の仕組みを学んだときに、真っ先に思い出したのが、この忌まわしいコーラ爆発事件です。

「○○しないでね」「○○しちゃダメだよ」

実は心理学では、この形式を否定命令と呼びます。知らず知らずのうちに言葉で「呪い」をかける方法です。「コーラを落とすな」という命令は、脳は「コーラを落とせ」という命令を受け取っているのと同じなのです。

単なる言い回しの問題ではありません。相手の脳と心に対する、深いしくみがベースにあります。

耳をふさぐ少年
写真=iStock.com/Jatuporn Tansirimas
※写真はイメージです

なぜ、「○○するな」という否定命令は、私たちのパフォーマンスを下げるのでしょうか。

心理学における有名な「シロクマ実験」があります。

「シロクマのことだけは、絶対に考えないでください」と言われると、脳は「シロクマを考えない」という命令を実行するために、まず「シロクマ」を強烈にイメージする必要があります。そしてそれを監視し続けてしまうという矛盾を抱えてしまいます。

“優秀な映画監督”なら肯定表現を使う

話せない人の会話は、この「シロクマ」で溢れています。他人にもやりがちですが、自分に言い聞かせていませんか?

書影
松橋良紀『誰とでもうまく「話せる人」と「話せない人」の習慣』(明日香出版社)

「緊張しないようにしよう」「ミスしないようにしよう」「遅刻しないようにしなきゃ」これらは全て、脳内に、「緊張して震える自分」「ミスをして青ざめる自分」「遅刻して走る自分」というネガティブなリハーサルを強制的に行わせているのと同じです。

相手や自分を心配しているつもりが、実は「失敗のイメージトレーニング」をさせているのです。

対照的に、人に動いてもらえる人や、自分を動かせる人は、脳内スクリーンの優秀な「映画監督」です。彼らは、相手に演じてほしい「成功シーン」だけを、肯定表現で伝えます。

・「緊張しないで」→「深呼吸をして、リラックスして話そう」
・「ミスしないで」→「一つひとつ、丁寧にチェックしておこう」
・「遅刻しないで」→「10分前には着いて、コーヒーでも飲もうか」