「コーラを落とすな」という命令の呪い
私が小学2年生のときです。母から頼まれました。
「コーラを買ってきて。地面に落としたら割れるから絶対に落としちゃダメだよ」
初めての一人でのお使いです。当時のコーラは大きな瓶でした。落としたら割れて台無しです。母の「落とさないで!」という言葉が頭の中でこだましています。
ようやく家までたどり着き、玄関で「お母さん、買ってきたよ」と叫んだ瞬間に、なぜか手が滑り、コーラ瓶が地面に落ち、まるで爆発したような音を立てて、すべてを玄関に撒き散らすことに。母が飛んできて、「何やってんの!あれほど落とすなっていったでしょ!」
心理学で「否定命令」の仕組みを学んだときに、真っ先に思い出したのが、この忌まわしいコーラ爆発事件です。
「○○しないでね」「○○しちゃダメだよ」
実は心理学では、この形式を否定命令と呼びます。知らず知らずのうちに言葉で「呪い」をかける方法です。「コーラを落とすな」という命令は、脳は「コーラを落とせ」という命令を受け取っているのと同じなのです。
単なる言い回しの問題ではありません。相手の脳と心に対する、深いしくみがベースにあります。
なぜ、「○○するな」という否定命令は、私たちのパフォーマンスを下げるのでしょうか。
心理学における有名な「シロクマ実験」があります。
「シロクマのことだけは、絶対に考えないでください」と言われると、脳は「シロクマを考えない」という命令を実行するために、まず「シロクマ」を強烈にイメージする必要があります。そしてそれを監視し続けてしまうという矛盾を抱えてしまいます。
“優秀な映画監督”なら肯定表現を使う
話せない人の会話は、この「シロクマ」で溢れています。他人にもやりがちですが、自分に言い聞かせていませんか?
「緊張しないようにしよう」「ミスしないようにしよう」「遅刻しないようにしなきゃ」これらは全て、脳内に、「緊張して震える自分」「ミスをして青ざめる自分」「遅刻して走る自分」というネガティブなリハーサルを強制的に行わせているのと同じです。
相手や自分を心配しているつもりが、実は「失敗のイメージトレーニング」をさせているのです。
対照的に、人に動いてもらえる人や、自分を動かせる人は、脳内スクリーンの優秀な「映画監督」です。彼らは、相手に演じてほしい「成功シーン」だけを、肯定表現で伝えます。
・「緊張しないで」→「深呼吸をして、リラックスして話そう」
・「ミスしないで」→「一つひとつ、丁寧にチェックしておこう」
・「遅刻しないで」→「10分前には着いて、コーヒーでも飲もうか」


