家賃を下げたくないというオーナーの心理
児玉さんは大学卒業後、もともと好きで通っていた家電量販店で社会人としてのスタートを切り、それから人材派遣会社勤務も経験したのち、27歳で不動産業界に転職。オーナーや入居者、建物の修正履歴といった情報を網羅する、不動産管理会社だった。
営業マンとして日々物件に出向きながら、やがて児玉さんは事故物件を抱えているオーナーの生の声に直面することになる。
「オーナーはみなさん言うんですよね。こんなに部屋をきれいにしたんだから、家賃下げたくないんだよって」
オーナーの立場で考えれば、事故物件になってしまったのは不可抗力であり、そのために家賃を下げざるを得ないという現実は受け入れがたいのだろう。
「オーナーにどう説明すればいいかと当時の上司に相談したところ、『今を乗り切りましょう』、『まずは安くても人を入れて収入を少しでも増やしましょう』と説き伏せて家賃を下げてもらうしかない、と。そういうものなのだなと思って、私自身も何度もそういった言葉でオーナーさんに説明して、家賃を下げてきました」
「事故物件の価値を取り戻したい」
不動産業界歴が10年以上となった頃、全般的なメンテナンスに関わる部署の責任者に。物件の修繕やオーナーの収益に関するコンサルティング、入居者からのクレーム対応、家賃回収など、物件にまつわる、より深い部分まで関わることになった。
それにより事故物件に関する案件も格段に増えていた。オーナーから連絡が入るとまず安否確認に向かい、物件内で亡くなっていた場合、その後の警察対応や遺族を探して連絡をするといったところまで携わった。
そんな日々のなか、児玉さんの心境に変化が生まれていく。
「オーナーの大変さや心労がそれ以前よりもよくわかるようになっていて、『今を乗り切りましょう』と伝えて家賃を下げてもらうことに、僕自身が納得できなくなっていきました。リフォーム費用が払えずに、極度に安く手放さざるを得ないケースも見てきましたし、そのたびに無力感にさいなまれていましたね……」
もともと40代で起業しようと考えていたという児玉さん。
「当初は独立後もごく一般的な不動産管理や不動産コンサルタントを生業にしようと思っていました。でも、だんだんと自分にしかできない事業を起こせないか、という考えが生まれてきたんです。それで、どうにかして事故物件の家賃減額で苦労するオーナーたちへの手助けができないか、そのサポート業を手掛ける会社にできないか、と」
そんなひらめきから異常現象の有無の確認と、異常が起こった場合は原因解明し事故物件の価値を取り戻すという方向性が決まった。

