4度の谷、4度の反撃
価格競争、O-157、健康番組の捏造、そしてコロナ禍。
4度の谷を越えるたび、新たな武器を手に入れ、村上農園は過去最高の売り上げを更新していった。
「谷の時期は辛くなかったですか」と尋ねると、村上さんはこともなげにこう言った。
「辛いというより、面白かったですね。とくにO-157の後は一番面白かった。毎日少しずつでも良くしようと手を打てたので。辛くはないんですよ。やるべきことをやるだけなので」
一拍おいて、こう続けた。
「辛いって考えたら、辛くなるでしょ。だからなるべく辛いとかっていうことは考えないようにするのが一番いいなって」
「運がいいんですよ」
村上さんは自身の半生をこう総括する。
「運がいいんですよ。私、絶対的に運が良くて」
それを象徴する、こんなエピソードを教えてくれた。
ある日新幹線に乗ると、自分が予約した席に、すでに誰かが座っている。
見覚えのある顔だった。大手量販店の決済権者――村上農園の商品を扱うかどうかを決められる立場の人物だった。
本来予約していたのは隣の席だが、何らかの理由で村上さんの席に移っていたらしい。そこで村上さんは隣に座り、品川から名古屋まで、2人でビールを飲みながら話し込み、商談がまとまった。
「確率的には何億分の1の話ですよ。通常ならありえない」
こんなことがよく起こるそうだ。
不思議な話だが、村上さんの言う「運」が訪れるのは、圧倒的な努力があってこそだろう。
「苦境に立った時だけなんとかするなんて無理なんですよ。日頃から『いかにして業績を上げるか』を考えて行動していなければ、そうはならないと思います」
O-157の絶望の中で豆苗に賭け、先代の反対を押し切って委託生産を始め、アメリカからのブロッコリースプラウトの一報で、すぐに独占契約を持ちかけた。
たしかに、すべては「日頃から、業績を良くするために考え行動し続けていた」結果だ。
そして売り上げ132億円企業に
村上さんが生まれたとき、母親が占い師に言われたという。「500人に1人の運勢だ」と。「5万人とかじゃなく500人。微妙でしょう?」と村上さんは苦笑する。だが、運を引き寄せる準備を怠らなかった人間にだけ、運は微笑むのだ。
だからこそ、倒産寸前の底から這い上がってこられたのではないだろうか。
カイワレの山ができた夏から30年。
村上農園の2025年12月期の売上高は132億5400万円に達し、豆苗は、全国のスーパーの棚に当たり前のように並んでいる。
そして、その価格は創業からずっと1パック100円前後のまま。キャベツが1玉300円に高騰しても、ほうれん草が298円になっても、変わらない。
工場で作るから天候に左右されないのは分かる。しかし、ニーズが増えても値上げしないのは、なぜか。
そこには、リクルート仕込みの「ブルーオーシャン戦略」があった。
後編で、その全貌を紹介する。




