“温室育ち”は外で育った野菜に勝てない
施設野菜メーカーの村上農園は、レタスをつくらない。トマトも、キャベツも、白菜も。
つまり、メジャーな野菜をつくらない。これは、植物工場を持つメーカーとしては異例の方針だ。
一般的な植物工場はまず、レタスかトマトをつくる。需要があり、売り先に困らないからだ。だが村上農園の社長 村上清貴さんに言わせれば、それこそが「負けパターン」の入り口なのだという。
「工場の野菜は品質面で、外で育った野菜に勝てません。ストレスがないからです。風や雨、気温の変化など、ストレスのある環境で育った方が、しっかりした味のいい野菜ができやすい。温室育ちはダメなんですよ」
さらに、コスト面の課題もある。畑の野菜は太陽の光と雨水で育つ。だから、エネルギーコストがほとんどかからない。一方、植物工場は電気代も空調代もかかる。品質で負け、コストでも負けるのだ。
「だから植物工場の野菜が求められるのは、気候の影響で露地野菜が高騰した時だけ。『植物工場にはありませんか』と連絡が入る。でも安くなったら『もう要りません』とお払い箱です」
つまり気候に恵まれた日本で植物工場でレタスやトマトを作って採算が合うのは、露地農家がいなくなった時しかない。
「だったら、売れない野菜を始めた方がいい。売れない野菜の価格は自分たちで決められるし伸びしろがありますから」
村上さんはサラリと言い切る。豆苗もブロッコリースプラウトも、村上農園が手がけ始めた頃はマイナーな存在だった。つまり「なくても誰も困らない野菜」である。
だからこそ競合がおらず、価格は自分で決められる。レタスやトマトのレッドオーシャンで薄利の価格競争に巻き込まれるのではなく、ブルーオーシャンで自ら市場を作る。
それが、村上農園のすべての商品戦略の起点だ。
誰もいないから値段が決められる
その方法論を、村上さんは前職のリクルート時代に学んだ。
リクルートはもともと、「マーケットのないところを開拓していく」のが強みの企業だ。
たとえば、求人情報誌の話が分かりやすい。仕事探しといえば「ハローワーク」に通うか「コネ」に頼るかという時代に、リクルートは雑誌に求人情報を掲載し、企業と求職者をマッチングさせるというサービスを確立した。だが、当初はブルーオーシャンだった市場も、「儲かる」とわかれば当然、追随する他社が出てくる。
大手新聞社が同様の雑誌を立ち上げ、「よもや情報誌の値下げ競争になるか」と思われた。しかしそのとき、リクルートがとった作戦は値下げではなかった。本屋で競争になるなら、場所を変えればいいと、「コンビニエンスストアやKioskに専用ラックを置いてもらう」という作戦で切り抜けた。つまり、設置場所の「ブルーオーシャン」を狙って成功したのだ。
だから村上農園では、「売れている」米もキャベツも白菜もつくらない。
前編で書いたO-157後の反撃をした時期――カイワレ以外をつくりはじめた当時は、豆苗もブロッコリースプラウトも、外部に生産を委託したルッコラやハーブも、すべて「日本にはまだ確固たる市場がなかった野菜」だった。
誰もつくっていないから、村上農園が価格を決められた。
誰も売っていないから量販店に提案すれば「面白いね、やりましょう」と話が進んだ。
30年間、一貫してこの戦略で走り続けてきたのだ。



