なぜ「第2の村上農園」は現れないのか
では、なぜ他社は同じことをしないのか。
答えは、先行投資の限界にある。
ブルーオーシャンの野菜の良さを認知してもらうためには、長い時間とお金が必要だ。多くの人に知られていない野菜は、はじめてすぐ、いきなりはうまくいかない。
「ブロッコリースプラウトなんて誰も知らなかったのが20年前です。そこから20年かけて認知を広げ、ようやく定着させてきました。それを、大企業が『3年で伸ばせ』と言ってはじめても、3年経って『やめましょう』になるのがオチです」
加えて、くわしくは後述するが、同じ水準の品質・価格で安定した供給を担保できる仕組みを作ることも、一朝一夕でできるものではない。
さらに、参入の際に壁となるのが、量販店への販路の確保だ。
食品メーカーが市場に参入しようとしても、量販店の青果バイヤーと面識がないと難しいという。たとえば、大手調味料メーカーが販売しようとしても、つながっているルートはあくまでグロサリーの部門。生鮮野菜のバイヤーは別の人間となり、一から関係を作らなければならない。
村上農園は、O-157後の苦闘のなか、ルッコラやハーブなどの外部委託販売で「失敗してもいい小さな挑戦」を繰り返し、全国の量販店と生鮮野菜売場との直接取引ルートを構築してきた。さらに、ゼロから30年をかけて豆苗、「ブロッコリースプラウト」の認知を広げ、マーケットを創造してきた。それを短期間で再現するのは、事実上不可能だ。
「野菜工場は簡単だろうと思って参入される企業は多くいらっしゃいます。自分たちの技術をもってすれば、簡単に収益が上がるだろうとおっしゃいます。けれど、実際そこに入った時に何が待っているかというと、品質面で露地野菜に負け、コストでも負ける現実です。農作物は、30年くらい先まで見越して投資しなければならない。1年、5年、10年で結果は期待できません」
ブルーオーシャンの開拓は一日にしてならず。長期戦の構えでなければならないのだ。
30年間ずっと「100円」のワケ
そして、実は豆苗も、いまだ「我慢の時期」にあると村上さん。その証拠が、豆苗販売を始めてからずっと「100円前後」をキープしている価格に表れている。
なぜ、豆苗は30年間、「100円前後」のまま売られ続けているのか。
コストは確実に上がっている。ウクライナ戦争の影響で穀物市場が混乱し、連動して豆苗のもとになるえんどう豆の国際価格も高騰。円安の影響もあり、種子の調達コストは従来の1.7倍から2倍近くにまで上がった。電気代、資材費、人件費もすべて上昇中だ。
山の斜面を利用して地下部分に工場を建てることで寒暖差を抑えたり、太陽光を最大活用したりと、なるべくエネルギーを使わない設計にしているとはいえ、自然の恵みで育まれる露地野菜とはかかるコストがまったく違う。
「出荷量が増えているからギリギリカバーできる」価格だという。
それでも村上さんは、値上げに踏み切らない。
「今は我慢して、とにかく普及させたい。みなさんが日常的に使える環境を築いてから価格を調整していく方が、大きく伸びるのではという戦略なんです」
さきほども言った通り、村上さんが見ているのは5年先でも10年先でもない。30年先の日本の農業だ。


