高齢化、離農はますます進む

「今、ほうれん草を作って普通に販売しても、農家の収益性はかなり低くなっています。肥料も、資材も、最低賃金も上がっているからです。でもほうれん草の価格は市場の相場で決まるから、生産コストがいくら上がっても関係ない。そんな状態で、さすがに後継者がいなくなっています」

たとえ継いでも、将来、子供を大学に進学させることができない。それくらいの所得しかないからだ。

高齢化と離農が進み、ほうれん草や小松菜を作る農家は減る一方だ。地球温暖化による気候変動も、今後ますます進むことが予想される。その時、栄養価が高く、工場で安定生産でき、幅広い料理に使える豆苗は、露地野菜の「受け皿」となりうる。

豆苗の市場規模は現在約50億円。村上さんが「普及したと言える点」とみなすのは約100億円で、チンゲン菜や春菊と同程度の規模感だ。まだ、半分にも達していない。

だから今は「定着」のための投資期間と捉えている。「100円前後」の価格は、単なる安売りではない。30年後のシェアを取るための戦略なのだ。

「100円の時代は、そのうち終わるかもしれないのでしょうか」

豆苗が値上がりする……。ほうれん草や小松菜が高騰するたび豆苗に頼り、刈り取った後、2度、3度と自宅で収穫している筆者は思わず身を乗り出して尋ねた。

「終わる可能性が絶対ないとは言えません。だけど、日本の消費者はこの30年間、物価がほとんど変わらない環境で暮らしてきました。世界的に見たら、こんな国はほかにないんですよ。その状況にこそ、問題があるのではないでしょうか」

設定温度は同じでも、状態が違う

132億円の売り上げを支えるのは、安定した価格だけではない。全国13カ所の生産施設から、同じ品質の野菜を毎日届け続ける信頼も大きい。

「植物工場なんだから、全部同じ品質になると思うでしょう? それが意外に難しい。同じエアコン23度設定でも、札幌と那覇ではおそらく感じる温度が違う。植物工場でも同じなんです」

たとえば、北海道の冬と沖縄の夏では、同じ温度を作るための風温も全く違う。湿度も水温も地域・季節で変わる。一見単純に見える温度管理が、実は最も難しい技術なのだ。

「決まった育て方をすれば同じものができる」と考える植物工場が多いなか、これらの要因から村上農園は、「毎日、違う育て方をする」ことを前提としている。