「前々日退職」でなぜ200万円が消えるのか?
定年退職を控えた人の間で、こんな話が広まっています。「65歳の誕生日の前々日までに退職すれば80万円近く得する」「60歳の誕生日の前々日までに退職すれば20万円近く得する」。YouTubeでもよく取り上げられている話題ですが、実はこの話には2つの大きな落とし穴があります。特に2つ目はインパクトが大きく、知らずに実行すると、得するどころか数百万円の損を被る可能性があります。
まず、「前々日までに退職した方が得」という話の仕組みから説明します。これは失業手当の制度に関わる話です。65歳の場合、64歳までに退職すれば雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)として1日あたり上限7623円(令和7年8月以降の額。毎年8月に改定)を最大150日間受け取れます。ところが65歳での退職になると、高年齢求職者給付金に切り替わり、1日あたりの上限額が7255円(同)に下がるうえ、給付日数が50日分の一時金になります。150日分か50日分か。トータルで計算すると、その差は78万700円。約80万円の差が出るのです。
60歳退職の場合も同じ構造です。59歳で退職すると基本手当の日額上限は8870円(同)ですが、60歳退職だと7623円に下がります。1日あたり約1200円の差が、150日分で18万7050円。約20万円の差になります。では誕生日の前日に退職すればいいかというと、日本には明治35年にできた「年齢計算に関する法律」があり、誕生日の前日にはすでに1歳年を取っている計算になるため、「誕生日の前々日」が64歳退職・59歳退職の最終日になります。ここまでは多くの情報源で紹介されている通りです。しかし、この話を鵜呑みにして行動すると、80万円得するどころか、退職金が200万円以上減る可能性があります。なぜか。2つの落とし穴を解説します。
「自己都合退職扱い」というワナ
落とし穴1:自己都合退職になり、失業手当がすぐに受け取れない
定年退職の退職日は、通常は会社の規定で決められています。60歳の誕生日、60歳の誕生月の月末、60歳になった年末、60歳になった年度末など、会社によって異なります。65歳定年の場合も同様です。
ここで問題になるのは、規定の退職日より前に自分で退職届を出して辞めた場合、自己都合退職になってしまう可能性があるということです。
自己都合退職になるとどうなるか。失業手当はすぐには受け取れません。7日間の待期期間が必要なだけでなく、さらに1カ月の給付制限を受けることになります。つまり、1カ月と7日が経過してようやく失業手当のカウントが始まるので、実際に受け取れるのは退職して2カ月後くらいになるのが一般的です。80万円得するはずが、受け取りが先延ばしになるわけです。
落とし穴2:退職金が数百万円減らされる
そしてこちらが最大の落とし穴です。自己都合退職になると、退職金が減らされる可能性があります。
退職金の支給額は、会社の退職金規定によって決まっています。多くの会社では、会社都合退職と自己都合退職で給付率が異なり、さらに勤続年数によっても係数が変わります。自己都合退職の場合、10%減額されるケースや20%減額されるケースがあります。さらに、勤続年数が短い場合は50%減額されることもあります。
たとえば退職金が2000万円だった場合、10%減額されれば200万円、20%減額されれば400万円が消えることになります。
65歳退職の場合、失業手当の差額は約80万円です。60歳退職の場合は約20万円。一方、退職金の減額は200万円や400万円になるケースも。80万円を得るために200万円を失うのでは、確実に損のほうが大きいのです。
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