「歩合給」は経営者が飛びつきたくなる制度
今年1月、プルデンシャル生命保険で営業社員や元社員が顧客から金銭を不正に受け取っていた問題が明るみに出ました。100人超が関与し、被害総額は約31億円とされています。不正な行為は約35年間にわたって繰り返されており、社長辞任や金融庁の立ち入り検査、営業自粛へと波及しました。
この種の事件は、当事者の倫理観や職業観の欠如として片づけたくなります。しかし私は「制度が人の視線をどこへ向けるか」という観点で捉えます。倫理だけでは防げない事故が、特定の条件下で起きやすくなるからです。
賃金の決め方は、その条件の中核にあります。特に成果の大きさだけで賃金が決まる「歩合給」は、経営者が安易に選びがちな制度です。数字が根拠になるので社員から不平不満が出にくく、労働分配率が安定するからです。
例えば、月30万円の社員Aと20万円の社員Bが並んだとき、差額の理由を問われて「Aのほうが頑張ったから」と回答すると、Bは納得できず、仕事への意欲が低下するでしょう。歩合給を導入すれば、その頑張りを数字で説明できるため、経営者はそうした人間関係の摩擦から逃れやすいのです。ここに、制度選択の落とし穴があります。
歩合給により、成果だけが評価の軸になると、社員は「どう稼ぐか」へ意識を集中させます。同僚や部下はライバルになるので、優秀な社員ほどノウハウを共有しません。成績が伸びずに困っている仲間がいても、助けないほうが合理的ということになってしまいます。
小さな逸脱も「成果のため」と正当化されやすくなり、その結果、隠蔽が入り込む余地が生まれるのです。
本稿では、成果至上主義による不正をなぜ倫理だけでは止めにくいのかを整理します。あわせて、歩合給が利己主義を強める仕組みであること、そして日本企業の人材育成の仕組みと衝突してしまう理由を説明します。そのうえで、歩合を残しながら不正と分断を防ぐための賃金と評価制度の組み立て方まで考えていきましょう。
歩合給を取り入れると「成長ステップ」が崩れる
日本企業の一般的な人事制度では、一般階層→中堅階層→管理階層へと上がっていきます。階層が上がるほど賃金が増える見通しがあるからこそ、社員は基本的には昇進を目指して成長しようとします。
ところが歩合給を強く取り入れると、この「成長ステップ」が崩れます。現場で成果を出している社員は「上司になると歩合がなくなる。それなら現場にいたほうがいい」と考え、昇進を拒むのです。会社側も「それでは困る」と、上司になっても個人の売り上げに応じた歩合を一部つける、といった妥協に流れがちです。
この妥協が、別の問題を引き起こします。賃金決定に歩合を残した上司は、自分の成果も守らなければなりません。部下を育てる時間が、目の前の売り上げに押し負けます。上司が率先しないのですから、「同僚同士でノウハウを教え合う」雰囲気など、生まれるはずもありません。
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