実際には自律的な行動を許さない組織に
私は、電通総研で人材・組織開発に関わるソリューションを企業に提供しているのですが、最近、人事担当者からよく聞くのは「せっかく育てた人材が辞めてしまう」という悩みです。独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査(2025年)でも、従業員300人以上の企業で最も多い課題は「人材を育成しても辞めてしまう(62.8%)」でした。
若手の離職率でも状況は深刻です。厚生労働省の調査(22年度)では、新規大学卒就職者の33.8%が就職後3年以内に離職しています。一方で40〜50代の人材の流動性は停滞気味で、社員の年齢ピラミッドでは若手だけが抜け落ちる現象が多くの企業で起きています。
ある自動車サプライヤーの人事担当者は「仕事に自律的に取り組める、会社としては残ってほしい社員ほど離職してしまう」とこぼしていました。多くの企業で共通して見られる現象であり、組織の競争力を確実に削いでいます。
背景の一つには、日本の従業員のエンゲージメントの低さがあります。米国ギャラップ社の調査(23年)によると、日本で「仕事に意欲的かつ積極的に取り組む人」の割合は6%しかありません。一方で、仕事に意欲を持たず組織の目標に否定的な層は24%に達しています。意欲的な層の4倍という大きな差です。
私たちが22年に実施した調査でも、エンゲージメントを高めるためには、「仕事でのやりがいを感じる」「自分が本来やりたいこと・実現したいことに取り組めている」「自分らしさを発揮できている」という“個人視点の要因”と「組織の業績向上や円滑な運営に貢献できている」という“組織視点の要因”があることがわかっています。日本の企業においてこれらの要素が満たされなくなっていることも、とくに若手が自分の会社にあきらめを感じている一因であり、この問題に向き合うことが、「デキる社員が辞めない会社」をつくる出発点になります。
最近よく耳にする「自律型人材」とは、どのような人材でしょうか? 与えられた枠組みの中で主体的に動くことが「自発性」であるのに対し、「自律性」はその枠組み自体を自分で描き、指示を待たずに判断・行動できることを意味します。変化が激しい時代において、自律性を備えた人材は、企業が最も期待を寄せる存在だといえます。
ところが現場では、そうした自律性を持つ人材ほど辞めていく矛盾が起きています。理由の一つには、組織の構造的な問題があります。自ら考えて動く人材ほど「この環境では、自分が実現したいことができない」と感じると、別の環境を求めて外に出やすいのです。能力を発揮したいという前向きな動機が、組織の「受け皿不足」と衝突してしまうのです。
その象徴は、古い慣習を引きずる現場のマネジメントです。「決められたことだけやっていればいい」と考える管理職のもとでは、自律的に動こうとする行動は抑え込まれます。企業は盛んに「自律型人材が欲しい」と言いますが、実際には自律的な行動を許さないオペレーションになっているケースが少なくないのです。
私自身も、かつて組織の方針と自分の考えがかみ合わず、力を活かしきれないと感じた経験があります。否定されたわけではなくても「この環境のままでは前に進めない」という感覚が積み重なり、離職に至りました。
重要なのは、自律型人材が辞める理由を、本人の性質だけで片づけてはいけないという点です。企業が求める人材像と、実際に受け入れられる人材像がずれていれば、期待した人材ほど定着しません。ここに企業の「課題の核心」があります。
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