多くの男性が感じる不安 「両立は絵に描いた餅」
子どもがいない男性の56.4%、子どもがいる男性の66.3%が、仕事と育児の両立に不安を抱えて転職・退職を検討している――。
スリールが公開した「両立不安白書2025」で明らかになったこの調査結果には、多くの反響がありました。仕事と育児を両立する悩みは女性に偏るものと考えられてきたため、「男性もここまで追い詰められているのか」という驚きをもって受け止めた人が多かったようです。
私自身は、多くのビジネスパーソンと向き合う中で、男性が両立に悩む姿をたくさん見てきました。ですから、今回の結果は「やはりそうか」という実感と、「ここまで数字として鮮明に表れたか」という驚きが入り交じるものでした。定性的に感じてきた危機が、いよいよ定量的に裏付けられたなという思いです。
「イクメン」という言葉が普及し、コロナ禍を経て、リモートワークが定着するなど働き方に変化が起きた一方、会社での評価基準についてはあまり変わっていません。親としてしっかり子育てしたいが、仕事でも成果を出したい。しかし、職場では長時間労働が「努力している」として評価の基準となっている。この葛藤に、多くの男性が「現在の職場では仕事と育児の両立なんて、絵に描いた餅だ」と感じているのです。
最も悩みが深いのは、子育て初期にある20〜30代の男性です。彼らが離職すると、企業にとっては数年〜十数年後に人事の中核を担うはずの層がごっそりと抜け、人材の断層が生まれます。両立不安はもはや個別の社員の問題ではありません。「組織の将来に直結する喫緊の課題である」と私は以前から訴えています。「両立不安」という言葉は、私たちが2017年の白書で初めて提示した概念です。当時は子どものいない若手女性を対象に調査を行い、92.7%が将来の両立に不安を抱え、そのうち半数が「仕事を諦めようと思った」と回答。まだ子育てが始まっていない段階から、彼女たちが仕事を続ける可能性を見いだせていない状況が可視化されました。
その後、私は現場で多くの生の声を聞いて、両立の問題は女性だけにとどまらないと実感するようになりました。多くの男性から「仕事と子育てを両立したい」と訴える声が聞こえてきたからです。特に職場で板挟みに陥りやすいのは、仕事ができてキャリア意欲も高いビジネスパーソンです。これは男女共通の設問ですが「求められればマネジメント(管理職)を経験してみたいと思いますか」の問いに、子どもがいない20〜30代では「とてもそう思う」「そう思う」が22.2%だったのに対し、子どもがいる20〜30代では39.5%に上がりました。
ちなみに、APAC就業実態・成長意識調査(19年)では「管理職になりたいと思っている人の比率」は21.4%にとどまっています。約8割が「管理職になりたくない」と敬遠する中で、意欲のある20〜30代はとても貴重な存在です。
ところが、昇進を目指して成果を出さなければと思うほど、子育てを理由にした早退や出張の辞退といった“弱み”を見せづらく、周囲に支援を求めることにもためらいが生じます。「正直に希望を伝えたら次のプロジェクトから外されるのではないか」「出張を断れば評価が下がるのではないか」といった恐れが積み重なって「両立などとても無理だ」という諦めに傾いていくのです。
「ウチでは前例がない」が「静かな退職」の一因に
彼らが「両立は無理だ」と感じるのは、特定のきっかけがあるわけではないようです。自分やパートナーの妊娠が判明したとき、育休の取得を相談したとき、復帰後の働き方を話し合ったとき。一つひとつの場面で、小さな挫折が積み重なっていきます。上司の価値観が古く、相談しても「ウチでは前例がないから」と突き返される、育休を取った社員に周囲が露骨にため息をつく、職場が殺伐としていて家庭の事情を話すこと自体が躊躇される――等々。
こうした出来事が日常的に堆積して、転職を考えるに至るのでしょう。そうして、上司や人事部に相談するよりも前に「辞めさせてください」と申し出るのです。両立不安が若手社員の「静かな退職」の一因になっていることは、間違いありません。
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