営業現場には「がんばれば結果が出る」という信念が根強く残っている。だが、「ガンバリズム」だけでは成果は上がらない。「売れる営業」を科学的に解き明かした高橋氏は、顧客の仮面の裏を読み解くことが重要だと説く。その手法とは――。

大切なのは「努力の量」ではなくて「努力の質」

がんばっているのに、なぜ成果が出ないのだろう――。営業支援の現場で、私は何度もこの言葉を耳にしてきました。熱意も誠実さもあるのに成果に結びつかず、上司からは「スタンスが悪い」と指摘されてしまう。私は彼らに素養がないとは思いません。むしろ、真面目で一生懸命さだけを武器に懸命に走っている人が多いと感じています。問題は努力の方向がずれていること、そして上司が具体的な指導ノウハウを持たず、「精神論」に頼らざるをえなくなっていることにあります。

上司が「もっとがんばれ」と励ますほど、本人は「やるしかない」と思い込み、空回りします。大切なのは「努力の量」ではなく「努力の質」です。そして成果を生むのはがむしゃらながんばりではなく、相手の心理や状況を正しく理解し、行動を調整できる“武器”です。

私はこれまでに4万人以上の営業強化支援に携わってきました。2022年には営業1万人とお客様1万人、計2万人を対象に大規模調査を実施し「売れる営業と売れない営業は何が違うのか」「お客様が信頼を寄せ、発注したくなる営業とは何か」を、あらゆる角度から検証しました。その結果、努力が成果につながらない背景には、ある共通点があることを突き止めました。

営業1万人調査では、営業成績を上位から下位まで5段階に分類し、最も成果を上げている層(ハイパフォーマー)と、最も苦戦している層(ローパフォーマー)を比較しました。すると「自分の強みや得意は何だと思うか」の設問で、ローパフォーマーのほうが「誠実さや真面目さ」「傾聴し共感する力」「お客様のお役に立てる引き出しの豊富さ」「資料作成力」といった項目で、ハイパフォーマーを上回っていました。

一方で、ハイパフォーマーが高い数値を示したのは「臨機応変な対応力」「交渉力」「段取り力」など、状況を読み、行動を設計する力でした。つまり、成果を分ける要因は「努力の量」ではなく「行動設計の質」にあります。

この調査結果は、真面目で人当たりのよい人ほど報われにくいという、現場の実感を裏づけるものでした。こうした構図の背景には、組織の仕組みそのものがあります。多くの営業現場では「がんばれば結果が出る」という信念が根強く残っています。

たとえば、経営会議で幹部に「営業は難しい仕事じゃない。当たり前のことをやれば成果が出るはずだ」と言われると、営業支援の予算増を要求しにくい空気が出来上がってしまいます。経営陣がそうした考えだと、部長やマネジャーも「行動量を増やせ」「諦めずに訪問しろ」といった精神論で現場を動かすようになります。こうして「成果が出ないのは努力が足りないからだ」という前提が組織に染みつき、支援よりも叱咤、仕組みよりも根性論が優先されていくのです。私はこれを「ガンバリズムの罠」と呼んでいます。

さらに近年は、現場のリーダー自身も、成果の出ない部下にどうアドバイスしたらよいかわからない場合が増えています。営業の難度は年々上がり、コロナ禍以降は顧客の働き方も変わりました。電話をかけても相手が出ない。提案しても比較検討の軸が増え、判断が遅れる――。

そんな状況で、かつての成功体験を伝えても、部下は参考にしようがありません。それでも「行動量を増やせばなんとかなる」というアドバイスしか出てこない。こうした環境が、がんばり続けても報われない人を生みやすくしているのです。

成果が出ない人を叱咤激励しても、状況は変わりません。私はある大手企業が録画した数百人の「上司による成果が上がらない部下への指導場面」を分析したことがあります。その結果、成果を上げられない部下の上司ほど、指導の中で「自分の過去の武勇伝」を語っている傾向が見られました。一方、指導を機に成果が上がったケースでは、上司が次の一手を特定し、具体的な気づきやアドバイスを与えていました。