過大評価されているロジカルシンキング
ここ10年ほどで、ビジネスの現場において「ロジカルシンキング」が一種の“正解”として定着してきました。「ファクトと感情を切り分けて整理する」「それを伝える際には結論から話す」といった所作がごく当然のものとして実践されている職場も増えてきたのではないでしょうか。
このロジカルシンキングというものは、言ってみれば「コンサル的な考え方」と言い換えることもできます。情報を集め、MECE(「もれなくだぶりなく」の意)に整理し、それをわかりやすくエクセルやパワーポイントでまとめる。コンサルティングファームにおいては新卒・中途問わず入社の段階で叩き込まれるスキルです。そのノウハウは、ビジネス書などを通じて社会全体に広く流通しつつあります。
大手コンサル会社・マッキンゼー出身の安宅和人氏が著した『イシューからはじめよ』は、2010年の刊行以来ロングセラーとして多くのビジネスパーソンの支持を集めており、お読みになったことのある方も多いのではないでしょうか。様々なビジネスの場面において「真っ先に解かなければいけない重要な問い」を「イシュー」と表現するケースもよく見聞きするようになってきました。
昨今のそんな流れの背景には、「論理的であること」が優秀さの証明と見なされる風潮があるように思います。ロジックを駆使して場を丁寧に仕切り、結論ファーストで筋道を立てて話せる人が、ビジネスの現場では信頼されやすいのです。
ロジカルシンキングは企業における教育・研修現場でも熱心に取り入れられてきました。確かに、これらの技法には一定の効果があります。再現性のある課題への対応や短時間でコミュニケーションを完結させたい場面において、ロジカルシンキングは非常に有効です。また、揺るぎないファクトは職階を超えたやり取りにおける共通言語にもなりえますし、ロジカルシンキングの浸透によるポジティブな影響は多方面にわたると言えます。
その一方で、こういったスキルがあたかも万能であるかのような誤解が広がっているようにも感じます。たとえば新規事業を検討する際に、網羅的なファクト収集を経て(=正しく「論理的」に)生み出されたアイデアを見て、「間違ってはいない気がするけどなぜか心が動かされない……」といった状況に陥ったことはないでしょうか。また、今ではビジネスマナーになりつつある「結論から話す」についても、トラブルの報告を唐突に結論から始めることで話がこじれるケースは容易に想像できます(重大な事実を知る前には聞き手も態勢を整えなくてはなりません)。部下との面談においては、「あなたの課題は○○だ」と一方的に結論を示してしまうと相手の気づきや主体性を奪ってしまうこともあるでしょう。
加えて、ロジカルシンキングは「与えられた前提の中で最適解を導く」ことには長けていますが、その前提自体を疑ったり、枠組みを問い直したりするには不向きな側面もあります。つまり、ロジカルシンキングとは、既存の枠内で局所的な最適解を見つけるためのゲームのようなものなのです。それを的確に運用できるのが重要なスキルであるのは間違いないのですが、新しい価値を生むためにはそんなゲームに興じるだけでなく、そもそもの前提や問い自体を見直す視点が不可欠です。
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