なぜ人は失敗を繰り返してしまうのか。どうすれば防げるのか。「失敗学」を研究する中尾政之東京大学名誉教授は「失敗を歓迎する文化を育てることが重要だ」という――。

失敗の根本原因は「無知」「無視」「過信」

自分の致命的なミスに気付いた瞬間、サーっと血の気が引いていく感覚……社会人歴が長ければ、誰でも一度はそんな経験があるのではないでしょうか。巷でも、企業の不祥事やシステム障害、個人情報の漏洩など、様々なヒューマンエラーがメディアを賑わせています。そのような「まさか」の大失敗は、なぜ繰り返されるのでしょう。

失敗を個人の責任にせず、構造や仕組みの問題として捉え直すのが、私が長年取り組んできた「失敗学」の根幹です。失敗は、再発リスクを明らかにする貴重な検出器。それを知識・経験として活用できるかどうかが、組織の成熟度に直結します。

かつてなら「想定外でした」で済んだかもしれません。しかし今は企業も個人も、失敗への対応が厳しく検証される時代です。企業なら株価の下落やブランドイメージの毀損、個人なら人事評価への影響や周囲からの信頼失墜、等々。本稿では、言い訳が通用しない時代に、個人、そして組織として、失敗にどう向き合い、どう活かすべきかを考えます。

私はこれまで、失敗に関する数多くの事例を分析してきました。その中で強く感じるのは、どれほど複雑に見える失敗であっても、原因を突き詰めれば非常にシンプルな要因に行き着くということです。「無知」「無視」「過信」。この3つがほとんどのミスの根本原因です。

私は以前、42人のエンジニアに「自分が経験した失敗の原因」を振り返ってもらう調査をしました。221件中、ミスを防ぐためのルールや対策があることを知らなかった「無知」に起因するものが35%、ルールはあったが面倒くさがるなどしてやらなかった「無視」が9%、自分に限っては大丈夫だろうと油断した「過信」が17%でした。この3つの要因は単純なので、設計組織の中で熟練エンジニアが事前チェックすれば容易に防止できます。実際に、現在の製造業では、このおよそ6割の失敗を未然に防いでいます。

しかし、どこまで突き詰めてもミスをゼロにはできません。人間は必ず失敗を犯しますし、対策に費やせるリソースにも限りがあります。だからこそ重要なのは、失敗の性質を見極めることです。

取り返しのつかない致命的な失敗は何が何でも防ぐ。起きてしまったら応急措置的な対応ではなく、再発しない頑強なシステムを構築すること。一方で、ケアレスミスとして軽視されたり、個人の「うっかり」で済まされたりする小さなミスは、あえてチーム全体で共有し、組織の学びに変えていく姿勢が大切です。

個人を責めるのではなくプロセスや構造に着目

致命的な失敗はどう防げばいいのでしょうか。具体例として、2024年1月2日に羽田空港で発生した日本航空516便と海上保安庁機の地上衝突事故を考えてみましょう。海上保安庁機が管制官の指示を誤認し、許可なく滑走路に進入したところに、JAL機が衝突した事故です。

この事故では、海保機の機長が「管制官から離陸許可を得た」と証言していますが、実際には誰も許可を出していませんでした。機長は聞いてもいないことを「聞いた」と思い込んでいたのです。これは典型的な「過信」による失敗です。

しかし、より深刻だったのは組織レベルでの「過信」でした。福岡空港や新千歳空港にはこのような誤進入を防ぐ安全装置がついていましたが、羽田空港や成田空港には「優秀な管制官がいるから大丈夫」という理由で設置されていなかったのです。

(構成=渡辺一朗 イラストレーション=村田篤司)

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