「1980年代の成功モデル」に依存したまま

日本は今、戦後最大の岐路にいる。AI、半導体、量子、宇宙、核融合、バイオといった国家戦略技術が、これからの国の安全保障・経済・雇用・産業・外交のすべてを決める時代になった。しかし多くの議論は、いまだに「どの技術にいくら投資するか」「どの補助金制度がよいか」といった“政策の部品”に終始している。

だが、日本の賃金停滞の本質とは「創造されず、破壊されず、よって成長しない経済」である。それは安定ではなく、“動かない構造”であった。国家戦略技術でも、まったく同じ構造的問題が再現されつつある。技術が足りないのではない。創造が足りず、破壊が足りず、成長へと変換されず、制度OSが技術の進化についていけない。そのために国家全体が「動かない構造」に戻ろうとしているのだ。

国家戦略技術とは本来、日本が未来へ生まれ変わるための“国家創造エンジン”である。そしてそこに必要なのが、創造λ(ラームダ:挑戦密度)・破壊(壊すべき現実)・成長γ(ガンマ:価値の増幅率)・制度OS(循環を止めない国家基盤)という4つの国家エンジンである。この4つが同期して回転したとき、日本は初めて未来へ進む。逆に言えば一つでも回らなければ、日本は再び“止まる国家”へ戻ってしまう。

国家戦略技術とは、単なる技術支援や研究強化ではない。国家が未来へ向かうために避けて通れない“自らのOS更新”である。国家OSとは、産業構造、行政構造、雇用制度、評価構造、教育システム、安全保障の価値観、予算制度、失敗に対する文化といった、国家を動かす深層構造のことだ。

AIも量子も宇宙も、未来の技術は未来の国家構造のうえでしか動かない。逆に言えば、国家構造が昭和のままなら、未来技術は必ず停止する。研究費を増やしても、次世代半導体工場を誘致しても、国家のOSが古いままなら、それは「古いOSに新しいアプリを入れる」のと同じ。動くわけがない。

国家戦略技術が前に進まない日本。その核心にあるのが、「未来の国家像」と「今の国家構造」の衝突によって生じる“深いギャップ(国家の裂け目)”である。これは国家そのものが、自分の内部に“相容れない2つの国家”を抱えている状態だ。

第1に、未来の技術構造と過去の収益モデルの乖離だ。日本は未来をAI・量子・宇宙で構築しようとしているが、収益の大部分は自動車や機械など“1980年代の成功モデル”に依存している。未来へアクセルを踏みながら、過去へブレーキを踏んでいる状態だ。

第2に、速度の乖離だ。AIは日次で進化し、宇宙ビジネスは年単位で変わる。しかし行政や企業は年度ごとの根回しで動く。速度差は100倍以上。未来はすぐそこにあるのに、国家の速度が追いつかない。

第3に、世界市場と国内基準の乖離だ。国家戦略技術は世界市場が前提だが、日本は“国内ユーザー基準”で仕様を考える。世界が求めるスピードや標準と、日本の意思決定文化はかけ離れている。

第4に、デュアルユース(軍民両用)と防衛忌避の乖離だ。世界では先端技術は安全保障と不可分だが、日本では「防衛との一体化」を避ける空気が根強い。自ら技術の用途を封じている。

(写真=時事通信フォト、ajay_suresh/Flickr/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)