「フラット化する世界」に疑いの目を向ける天才教授がいる。果たして世界は本当にフラット化しているのだろうか? フラット化した世界市場を前提とするグローバル戦略は正しいのだろうか?

「グローバリゼーション津波論」は正しいか

パンカジ・ゲマワット
1983年~2008年、ハーバードビジネススクールの教員を務め、91年には同スクールの史上最年少の正教授に。現在は、スペインのIESEビジネス・スクール教授を務める。『Redefining Global Strategy』など著書多数。

まず初めに、私がなぜ「セミ・グローバリゼーション」という概念に行き着いたのか、お話ししましょう。

1980年代半ば、私は米国ハーバード大学のビジネススクールで教鞭を執りながら、「グローバル戦略」に関する論文を書いていました。私は読書が好きで、多くの本を読んでいますが、80年代、「グローバル戦略」に関連する本の著者に、同じような主張をする人が多いことに気づいたのです。

「グローバリゼーションによって国境はなくなり、いずれ世界はフラット化する、もしくはフラット化しつつある」

この「フラット化」を前提として論じる本が多くありました。「世界のフラット化」といえば、トーマス・フリードマンが書いた世界的なベストセラー『フラット化する世界』を思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、この考え方は、案外古くから存在していたものです。

1850年代には、アフリカ探検家のデイビッド・リビングストン(スコットランド人の探検家、宣教師)が、鉄道、電報を通じて世界は、フラット化すると言っています。

第二次世界大戦前には、ヘンリー・フォード(フォード・モーター創業者)が飛行機やラジオが、“世界をフラット化する”と言っています。1940年代には、『1984年』で有名な作家のジョージ・オーウェルが、「テクノロジーによって世界が1つになるなんて皆言っているけれどウンザリだ」というような発言をしている。